映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』

 
       

botero-550.jpg

       
作品データ
原題 BOTERO  
制作年・国 2018年 カナダ
上映時間 1時間22分
監督 ドン・ミラー
出演 フェルナンド・ボテロ(本人)、フェルナンド・ボテロ・セア(長男)、リーナ・ボテロ・セア(長女)、ホアン・カルロス・ボテロ・セア(次男)ほか
公開日、上映劇場 2022年4月29日(金)~Bunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、5月13日(金)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

 

観る者をにこやかにする多幸感、

コロンビアが生んだ巨匠フェルナンド・ボテロの魅力とは?

 

botero-pos.jpg

人も動物も植物もふっくらふくよかなフォルムと優しい色使いに魅了され、誰しもが心和ませるフェルナンド・ボテロの絵画や彫刻。その独特のフォルムは「ボテリズム」と呼ばれ、日本語でいう“ぼてっとした”とか“ぽっちゃり”“ぷにゅぷにゅ”というイメージとマッチする。今でも精力的に創作活動を続けるボテロは1932年生まれの90歳。本作は、彼の生涯をボテロ自身と3人の子供たちと共に振り返りながら、作風に影響を与えた出来事や評価の変遷など、その魅力的な人間性と創作の根源に迫るドキュメンタリー映画である。


ボテロの作品はどこかで目にしたことがあるような親近感があり、改めてその芸術性に触れられる至福のひと時でもある。今年は東京・名古屋・京都で展覧会《ボテロ展 ふくよかな魔法》が開催されるので、よりお楽しみ頂けるための参考になると思う。


映画の中のボテロは85歳位だろうか、シルバーグレイのヘアに端正な顔立ちの男前。二人の息子と一人の娘の4人でテーブルを囲み、昔話に花を咲かせて実に和やかな雰囲気だ。南米のコロンビアで生まれたフェルナンド・ボテロは、4歳の時に父親を亡くし、母親が裁縫の腕一本で3人兄弟の長男として育てられた。闘牛士の学校へ行っても闘牛の絵を描いて、初めて自分の絵が売れた時は嬉しさのあまり2ペソを握りしめて走って帰ったら、途中でその2ペソを落としてしまったとか!? 長男であっても彼に自由を与え彼の創作活動を支えた母親の寛大さが、後の偉大な芸術家を生むことになる。


botero-500-5.jpg大人になり渡欧してからのボテロは様々な芸術性を体得していく。イタリアのフィレンツェでは憧れのピエロ・デラ・フランチェスカを始めとするルネッサンス芸術の洗礼を受ける。それまで平面的だった絵画がより立体的な具象画として光り輝いていたのだ。その後、メキシコでは鮮やかな色彩美に魅了され、マンドリンの絵を描きながら独自の表現に辿り着くことになる。物事の見え方、捉え方をふくよかにすることで、独自の豊かな世界観を生み出したのだ。決して太っている人ばかりをモデルにした訳ではなく、特に太っている人が好きな訳でもないのだ。


botero-500-2.jpg.jpgさらにニューヨークでは、貧しいながらも向上心を絶やさず新たな作品に挑戦。ピカソやミロなどの抽象画が持てはやされていた時代、ボリューミーな具象画は酷評されてとても傷付いたという。それでも、クリスマスには必ず手作りの物を贈ってくれたととても嬉しそうに語る子供たち。そんな低迷期の傑作「12歳のモナリザ」が若いキュレーターの目に止まり、ニューヨークの近代美術館MOMAに展示されることになる。あのレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」を題材にしているものの、「規範や流行にとらわれない観方、これこそモダンアートだ!」とか、「名画を模倣するには気骨と冷静さが必要。作者のアイデアを理解し、独自の絵を描いている。」と、ボテロ独自の画風が初めて評価されたのだ。


botero-500-3.jpg.jpgようやく一流のアーチストとして認められ、トスカーナのピエトロサンタを拠点に絵画だけでなく彫刻も多数発表。精鋭化されたボテロの作品は世界中で展覧会が開かれ人気を博していく。だが、4人目の子供、幼い息子・ペドリードの事故死にみまわれた時の衝撃は大きく、ボテロ自身も手に怪我を負い、創作活動が絶望視されたほどだったという。そんなボテロを救ったのは3人の子供たちだった。芸術家として尊敬し、誰よりも優しい父親を気遣い、ボテロの絶望を希望へと変えていったのだ。深い悲しみと愛情を込めた絵画「ペドリード」こそ、ボテロの最高傑作だと思う。


botero-500-1.jpg.png「信仰心はあまりなかった」と言いつつも、子供の頃から見上げていたマリア像のように、慈愛に満ちた豊かさを湛えたボテロの世界観。時に風刺画のような捉え方をされることもあるが、観る人の心を和ませ、大らかな気分にさせてくれる。麻薬コントラの横行で社会的にも文化的にも衰退していたコロンビアに、私財を投げ打って二つの美術館を建立。毎年7月にはピエトラサンタに子や孫やひ孫などが集まり、大勢の家族に囲まれて共に過ごすという。


botero-500-4.jpg.jpg「人生への情熱と謙虚さを失わず、人生を楽しむこと。成功しようがしまいが、私の好きな絵を描いていくこと。決して諦めず努力すれば、必ず成し遂げられる!」――フェルナンド・ボテロからの贈り物。

 

(河田 真喜子)

公式サイト: https://botero-movie.com/

配給:アルバトロス・フィルム

©2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved.
 


《ボテロ展  ふくよかな魔法》
 公式サイト:https://www.ntv.co.jp/botero2022/#top

  • 京都市京セラ美術館 
    2022年10月8日(土)~12月11日(日)

 

 

カテゴリ

月別 アーカイブ