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『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

 
       

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作品データ
原題 My Salinger Year  
制作年・国 2020年 アイルランド・カナダ合作
上映時間 1時間41分
監督 フィリップ・ファラルドー
出演 マーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、ダグラス・ブース、ブライアント・F・オバーン、コルム・フィオール他
公開日、上映劇場 2022年5月6日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

 

~夢と現実と恋のはざまで揺れる、ワーキングガールの格闘記~

 

1995年のニューヨーク。西海岸に恋人を残して、この大都市にやって来たジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、“安アパートに住み、カフェで執筆して作家になる”という漠然とした夢を抱いていた。女友達とルームシェアしながら、とりあえずは仕事探し。仕事を斡旋してくれる会社から「作家志望なら、出版社は無理ね」と言われ、老舗の出版エージェンシーへ。女ボス・マーガレット(シガニー・ウィーバー)のアシスタントとして働き始めたが、主な仕事は、あの著名作家J・D・サリンジャー宛に届くファンレターの処理。これが、ジョアンナを悩ませる。それらの内容が共感を呼ぶほどに熱く、ジョアンナは事務的な対応に疑問を感じ出したのだ。

 
MYD-500-2.jpgジョアンナ・ラコフが自身の体験をもとに書いた『サリンジャーと過ごした日々』を映画化したもの。本作は文芸版の『プラダを着た悪魔』(2006年/デビッド・フランケル監督)ともいわれるが、あのパワハラ全開だったメリル・ストリープより、シガニー・ウィーバー演じるこのボスのほうが、イヤみがなく、断然好感が持てるし、実にカッコいい!それに、いかにもサクセスストーリーめいていた『プラダを着た悪魔』と比べ、他者との競争に勝つのが一番という上昇志向より、等身大で悩み試行錯誤し、仲間と心を寄せ合いながら成長してゆくことを重視しているような物語に見える。これは、時代的・社会的な背景があってのことだろうか。ジョアンナの空想(妄想?)を混在させながら物語が進行してゆくのも面白い。

 
MYD-500-4.jpgサリンジャーというアメリカ文学史における巨星を登場させながら、ヒロインの漠然とした夢を、日常の中できちんと意識すべき目標へと変化させてゆく過程は興味深い。「朝の15分でいいから、毎日書け」とサリンジャーに言われるなんて、ね。一方、恋模様のほうは荒れ模様。ジョアンナは遠く離れた恋人にサヨナラを告げないまま、ニューヨークで出会ったドン(ダグラス・ブース)と付き合い始めるのだが、この恋は予想外の波乱を呼び起こす。仕事でも恋でも、あっちこっちで頭を打つ。それでも、彼女はなかなかにガッツがあって、心も優しくて、いざとなったら“キッパリ女”になれるし、ちょっと応援してあげたくなる。

 
MYD-500-3.jpg90年代を意識した衣装に注目。シーンをさりげなく引き立たせるようしっかり計算されつつも、登場人物の個性にぴたりとはまっていて印象に残る。特に、シガニー・ウィーバーの着こなしは素敵だ。本への愛、作家への愛、若さゆえの未熟さに対する愛がこめられた、爽やかな後味の作品。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://bitters.co.jp/mynydiary/#modal

配給:ビターズ・エンド

9232-2437 Quebec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac (C) 2020 All rights reserved.

 

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