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『英雄の証明』

 
       

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作品データ
原題 A Hero  
制作年・国 2021年 イラン・フランス
上映時間 2時間7分
監督 監督・脚本・製作:アスガー・ファルハディ (『彼女が消えた浜辺』『別離』『セールスマン』)
出演 アミル・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、サリナ・ファルハディ
公開日、上映劇場 2022年4月1日(金)~シネ・リーブル梅田 、シネマート心斎橋、京都シネマ 4月8日(金)~シネ・リーブル神戸、他全国順次公開

 

何が男を負の連鎖へと導いたのか?

アスガー・ファルハディ監督が警鐘を鳴らす心の油断

 

ペルセポリス遺跡のあるイランの古都シラーズを舞台に、一人の男の油断と判断の不味さがもたらす負の連鎖を、日常を切り取るようなさりげない映像ながら強烈に印象付ける。しかも、メディアやSNSなどの急速な情報網がもたらす功罪や、善良な普通の人々があれよあれよという間に追い込まれていく恐怖をも見せつける。男を信じて支える姉夫婦や婚約者の優しさや幼い息子の健気さが余計に男の不運を際立たせているようで切ない。男の何がいけなかったのか、いったいどうすれば良かったのか、決して他人ごとではない顛末に誰しもが共感と教訓を得ることだろう。アスガー・ファルハディ監督の脚本は完璧なだけに、遣りきれなさが残る。


eiyunoshoumei-500-5.jpg冒頭、収監中のラヒム(アミル・ジャディディ)が二日間の休暇をもらって出所するがバスに乗り遅れるシーンから始まる。「あ~あ、ツイてない」、この先の不運を予感させるようだ。ラヒムは3年前に背負った借金を返済できず、貸主である元妻の兄に訴えられて刑務所に入っている。そんな矢先、恋人のファルコンデ(サハル・ゴルデュースト)から17枚の金貨を拾ったという知らせを受け、休暇中に換金しようとするが、借金の半分にしかならないという。残りの返済の猶予を懇願するが、元妻の兄は「決して許さない!」と断固拒否。


eiyunoshoumei-500-2.jpgかつてラヒムは左官業を営んでいたが、友人と共同で起業しようと高利貸しから借りてまで用意した元手を騙し取られ、妻の兄に大きな借金をしてしまったのだ。その事が原因で離婚。一人息子のシアヴァシュ(サレー・カリマイ)は姉夫婦が面倒を看てくれている。相談もなく高利貸しから借金をしたこと、友人に騙し取られたこと、優柔不断な男の油断がもたらした大きな判断ミス。さらに、良心の呵責から拾った金貨を持ち主に返そうと街中に張り紙までして、彼が刑務所に戻ってから現れた持ち主だという女性に姉と息子が応対して金貨を渡してしまう。


eiyunoshoumei-500-6.jpgそのことを聞きつけた刑務所の所長たちが「これは美談だ」とマスコミに広め、ラヒムは世間からも「正直な英雄」として持てはやされる。さらに、ラヒムの借金返済のために慈善団体が募金活動までしてくれて、吃音で上手く喋れない息子のシアヴァシュと共に世間の注目を浴びるようになる。だが、「同情をかおうと息子を使って世間を騙している」などとSNSなどで妬まれたり誹謗中傷されたりして、せっかく決まりかけた仕事も失う羽目に。その都度必死で証明しようとするが、信用は失墜するばかりだった……。


eiyunoshoumei-500-3.jpg心の迷いが不幸を招き人生の岐路に立つ人物を濃密な映像でスリリングに描写するアスガー・ファルハディ監督は、ベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭にアカデミー賞などで高い評価を受けているイランを代表する映画監督だ。世の中には平気で他人の物を奪い取る者もいれば、憎しみで傷付ける者もいる。不運な事に遭遇した時の人間の判断力が試されると同時に、人生そのものが問われているようで実に辛辣だ。あの善良な人々のためにも、もう少し救いのあるラストにして欲しかった。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:https://synca.jp/ahero/

配給:シンカ

©2021 Memento Production Asghar Farhadi Production ARTE France Cinema

 

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