映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『シラノ』

 
       

cyrano-550.jpg

       
作品データ
原題 CYRANO  
制作年・国 2021年 イギリス・アメリカ
上映時間 2時間4分 PG-12
原作 原作:エリカ・シュミット(戯曲:エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』より)
監督 監督:ジョー・ライト(『プライドと偏見』『つぐない』『アンナ・カレーニナ』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』) 脚本:エリカ・シュミット 音楽:ブライス・デスナー&アーロン・デスナー
出演 ピーター・ディンクレイジ、ヘイリー・ベネット、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ベン・メンデルソーン
公開日、上映劇場 2022年2月25日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)他、全国ロードショー

 

時代を超えて語り継がれる“無償の愛”。

ミュージカル版として甦る、

純愛物語の象徴「シラノ・ド・ベルジュラック」。

 

身体的コンプレックスのせいで最愛の人に想いを告げられないまま、生涯を捧げた男の純愛を描いた戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』。19世紀末のパリ、ベルエポックの時代に書かれた物語が、120年以上経った今でも芝居や映画・ドラマに、さらにオペラやバレエなどでも演じられ続けている。叶わぬ恋と知りつつ “無償の愛”を貫き通したシラノ。その生き様にこそ共感し、心動かされる。時代を超えて「シラノ」に魅了されるのは、遠き日の思い出のようになってしまった“純愛”の気高さを、改めて教えてくれるからだろう。


cyrano-500-1.jpg17世紀のフランス。文武両道に秀で人望もある騎士シラノ・ド・ベルジュラックは、幼なじみのロクサーヌへの愛を生き甲斐にしていたが、身体的コンプレックスから愛を告白できずにいた。(原作は「異様に大きな鼻のシラノ」だが、本作では「低身長のシラノ」という設定。)ロクサーヌへの愛を謳う言葉は泉の如く湧き出るが、それを伝える自信がない。自分のような者が求愛すると彼女に恥をかかせてしまう。愛すればこそ言い出せずにいたのだ。


cyrano-500-4.jpgある日、ロクサーヌから二人だけで会いたいと言われ、ついに自分の想いが通じたのか、と期待に胸膨らませるシラノだったが、「新兵のクリスチャンに恋をしてしまった!」と告げられ、愕然とする。だが、頬を紅潮させてクリスチャンへの恋心を熱く語るロクサーヌを目の当たりにしたシラノは、「クリスチャンとの恋の橋渡し」という彼女からの依頼を引き受けるしかなかった。


cyrano-500-3.jpg一方、背が高く若くてハンサムなクリスチャンは、ロクサーヌを満足させられるような文才がなく、シラノに恋文の代筆を依頼。それまでのロクサーヌへの想いが堰を切ったように溢れた恋文は、瞬く間に彼女の心を掴んでしまう。……その後色々あって、兼ねてからロクサーヌにご執心のギーシュ公爵の嫉妬をかい、恋敵のクリスチャンとシラノは戦場へと派兵されてしまう。悲しみに暮れるロクサーヌは、「必ず彼を守って、毎日手紙を書かせて」とシラノに懇願するのだが、……。


cyrano-500-6.jpg武勇に優れ、名誉を重んじ、女性を大切にする騎士道精神が尊ばれた時代。まさにシラノは“騎士の鑑”のような人物だった。外見か中身か?男女問わず、外見だけ良くてもすぐに飽きてしまうだろう。外見にかかわらず、傍にいて心を豊かにし尊重し合える人が望ましい、と私は思うのだが。きっとロクサーヌもそう思っただろうに、シラノは自信がないばかりに愛を告げられず、結局は彼女に寂しい思いをさせてしまったのではないか。そして、崇高なまでの愛で締めくくられるラストシーン、その切なさに胸が張り裂けそうになった。


cyrano-500-8.jpg本作は、オフ・ブロードウェイで上演されていたミュージカル版『シラノ』を、イギリスの名匠ジョー・ライト監督が映画化したもので、舞台でシラノを演じていたピーター・ディンクレイジと、ロクサーヌ役のヘイリー・ベネットの主役二人をそのまま起用。ロケ地は、シチリア島にあるゴシック様式の建築が多く残されているノートの街や、活火山であるエトナ山の山麓などで撮影。当時の衣装を現代のアレキサンダー・マックイーン風にアレンジしたという衣装は、楽曲にのせて舞うように歌う恋するロクサーヌにぴったし。全編ナマ歌で撮影されたというから、他のミュージカル映画にはない独特な雰囲気を醸し出している。


2年前に公開されたフランス映画『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』では、原作者のエドモン・ロスタンが戯曲を書き上げる経緯が物語同様ドラマチックに描かれた快作だった。さらに、ブロードウェイ版『シラノ・ド・ベルジュラック』では、ケビン・クラインが流麗な言葉のシャワーと大立ち回りで魅了。有名なストーリーなので結末を知っていても、いつもラストでは涙せずにはいられない。


cyrano-500-7.jpgクリスチャンを通じてロクサーヌへの想いを語らせるシラノ。その熱い思いが滲み出てくるバルコニーのシーンや、その前の恋するロクサーヌの告白を聴くシーンなど、シラノの眼差しを繊細に捉えた映像は、自らの悲嘆を隠しながらも彼女の気持ちに寄り添おうとする男の優しさであふれていて、いつまでも切ない愛で胸がいっぱいになる。


(河田 真喜子)

公式サイト:https://cyrano-movie.jp/

公式Twitter:https://twitter.com/universal_eiga

配給:東宝東和

© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

カテゴリ

月別 アーカイブ