原題 | 原題:艾莉絲旅館 英題Hotel Iris |
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制作年・国 | 2021年 日本・台湾合作 |
上映時間 | 1時間40分 |
原作 | 小川洋子(©幻冬舎「ホテル・アイリス」) |
監督 | 奥原浩志 |
出演 | 永瀬正敏、陸夏(ルシア)、菜葉菜、寛一郎、大島葉子、マー・ジーシャン、バオ・ジョンファン、リー・カンション他 |
公開日、上映劇場 | 2022年3月4日(金)~シネ・リーブル梅田、シアタス心斎橋、京都シネマ、3月18日(金)~シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
これは現実なのか、白昼夢なのか。
一線を越えた、ミステリアスな愛のお話
原作は、小川洋子の『ホテル・アイリス』。この人の書く恋愛小説となると、簡単にテレビドラマ化されて大衆受けするような、甘っちょろいもんではない。一言で言ってしまえば、サディスト男とマゾヒスト少女の、いわゆるSM愛であるが、それも一筋縄ではいかない。映像化された本作でも、あっちゃこっちゃに謎があり、観た後も全問正解などできていない。でも、何だか後を引く。雰囲気のある作品だったな、と胸の中でつぶやく。もういっぺん、その謎と向き合うために、見直してみたいという欲望にとらわれる。
舞台は、どこか寂れたような海辺の町。ちょっとクラシカルな感じの「ホテル・アイリス」のフロントにいるのは、ヒロインのマリ(陸夏)である。台湾人の父親(マー・ジーシャン)は事故で亡くなり、日本人の母親(菜葉菜)がこのホテルを経営しているのだが、母は男性と連れ立って出かけることが多い。そんなある日、マリは、ホテル内に響き渡る女の悲鳴を聞く。駆けつけてみると、男が女に暴力と罵声を浴びせていた。それをただ見つめるマリの中で、今まで体感したことのない何かがうごめく。それは性のにおいのするもの。そして、ロシア文学の翻訳家だというその男(永瀬正敏)とマリの日常が交差し始めるとともに、互いが求めるものを符号のように見つけ出し…。
SM愛に加え、マリのエディプスコンプレックスが強くあぶり出されていく。「見る」ということも、この物語で大きな意味を持つ。相手を見る、鏡の中の自分を見る、鏡の中の相手を見る、鏡の中で自分を見つめている相手を見る。見ることはエロティシズムを昇華させる一つの手段なのだ。そして、いくつもの謎。マリの父親はどのようにして亡くなったのか。翻訳家はいったい何を翻訳しているのか(マリが見たいと思っても、なぜか見せたがらない)。翻訳家と、途中から登場する翻訳家の甥(寛一郎)の行く末は? そして最後にホテルにやって来た男は誰なのか…などなど、あれやこれや推測しつつ、文学的ムードをたっぷり味わう。
日本人と台湾人のキャスト&スタッフが絶妙な仕事ぶりを披露した本作。永瀬正敏のけだるいような、怖ろしいような人物像が印象的だ。ちなみに、マリの父親役のマー・ジーシャンは、永瀬正敏も出演した『KANO 1931海の向こうの甲子園』(2014年)で、監督業もこなした。そして、台湾の名優リー・カンションが売店の男を演じ、やはりただならぬ存在感を見せつけている。
(宮田 彩未)
公式サイト:http://hoteliris.reallylikefilms.com/
配給:リアリーライクフィルムズ、長谷工作室
(C)長谷工作室