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『ウエスト・サイド・ストーリー』 

 
       

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作品データ
原題 WEST SIDE STORY
制作年・国 2021年 アメリカ
上映時間 2時間37分
監督 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:トニー・クシュナー 指揮:グスターボ・ドゥダメル 作曲:レナード・バースタイン 作詞:スティーヴン・ソンドハイム 振付:ジャスティン・ペック
出演 アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、マイク・ファイスト、アリアナ・デボーズ、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
公開日、上映劇場 2022年2月11日(金・祝)~全国ロードショー


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~ブラッシュアップされた不朽のミュージカル映画~

 

あのミュージカル映画の金字塔『ウエストサイド物語』が日本で公開されたのが1961年12月23日でした。奇しくも60年後の同じ日、スティーヴン・スピルバーグ監督がリメイクした本作の完成披露試写会がTOHOシネマズ梅田で行われ、ぼくはかなりのハイテンションで大スクリーンにのめり込みました。


なにせ、名匠ロバート・ワイズ監督(1914~2005)が手がけた1961年作品は、映画史にさん然と輝く作品ですからね。アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞など計10部門で受賞し、稀代の名指揮者レナード・バーンスタイン(1918~90)が作曲した『マリア』『トゥナイト』『クール』『どこかで(Somewhere)』などの主題歌は今やスタンダード・ナンバーとして知られています。


WSS-500-1.jpgだから21世紀の今、スピルバーグがどう料理したのかめちゃめちゃ気になります。期待半分、不安半分……。前情報をいっさい入れず、頭を真っ白にしたままドキドキしながらオープニング・シーンに向き合うと、ありゃ、バスケット・コートではなかった! 現在、リンカーン・センターになっているスラム街の再開発地区が映し出され、壊されたビルの扉から顔を覗かせる少年のアップ。


このシーンを見て、まずはホッとした次第。なぜなら、時代を現代に変更されているのではないかと危惧していたからです。やはり、この物語は「1950年代後半」のニューヨーク・ウエストサイドでないと話になりまへん(笑)。その狭いエリア内で白人系のジェット団とプエルトリコ移民のシャーク団という2つの不良グループの抗争を軸にして悲恋が綴られていくのです。


WSS-500-6.jpgとやかくオリジナル作と比較するつもりはありませんが、両グループが激突する冒頭シーンからして、正直、熱量とダイナミックさにおいて今回のスピルバーグ版がはるかに上回っていました。振付がすごく大胆で、俳優の汗が飛び散ってくるほど躍動感にあふれていました。


とりわけジェット団とシャーク団が対峙するダンス・パーティーの場面が秀逸。ヒップホップ系の踊りを採り入れ、それらが旧来のステップやジャンプと見事に融合し、ダンシングする俳優たちみながマイケル・ジャクソンに思えたほど。


WSS-500-4.jpgマイケルは舞台の『ウエストサイド物語』の影響を受け、自らのダンスで同じ振付を再現していましたからね。得も言われぬエネルギーの塊にぼくの胸がビンビン反応し、知らぬ間に客席でステップを踏んでましたがな(笑)。


そのダンス・パーティーでひと目惚れしたトニー(アンセル・エルゴート)とマリア(レイチェル・ゼグラー)。2人は、ジェット団の元リーダーとシャーク団を率いるベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)の妹なので、絶対に結びついたらアカン仲です。この典型的な〈禁断の恋〉は、もちろんシェークスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』を下敷きにしています。


WSS-500-2.jpgトニー役のエルゴートとマリア役のゼグラーから独特な〈オーラ〉が感じられ、オリジナル作のリチャード・ベイマーとナタリー・ウッドのカップルに比肩するほどよかったです。身長がエルゴート193センチ、ゼグラー157センチ。この36センチ差が、〈分断〉を暗喩しているようにも思え、非常に利いていました。


WSS-500-3.jpgそれと、オリジナル作では助演男優賞と助演女優賞を受賞したベルナルド役のジョージ・チャキリスと彼の恋人アニータ役のリタ・モレノがめちゃめちゃ光っていました。とくにチャキリスはこの映画で大ブレーク! ぼくの従姉妹のお姉ちゃんは何通もファンレターを送ってはりましたわ(笑)。


その2人に比べると、本作のマイク・ファイストとアリアナ・デボーズは、確かに踊りはうまかったけれど、存在感がちょっと薄かったかな。驚いたのは、見事に脇役を演じたリタ・モレノが名曲『Somewhere』を朗々と歌っていたこと。まだご存命とは知らなんだ。御年、90歳。シビレましたわ~!!


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【演出中のスティーヴン・スピルバーグ監督と、リタ・モレノ(後方)】

本作ではパクパクはなく、すべて俳優に歌わせているそうですね。だから妙な違和感がなかった。オリジナル作でナタリー・ウッドが歌う場面、よくよく見ると、ちょっと口がずれているような……(ホンマかいな!?)。「とやかくオリジナル作と比較するつもりはありませんが」と言いながら、めちゃめちゃ比較しまくってますね。ごめんなさい。


それにしても、なぜ今、『ウエスト・サイド・ストーリー』なのか? この欄の1月分で取り上げた『クレッシェンド 音楽の架け橋』でも書きましたが、世界は確実に〈分断〉が進んでいます。60年前にくらべ、本作のような人種・民族だけでなく、宗教(信仰)、イデオロギー(政治思想)、経済的基盤(格差)、医療(ワクチン接種)など幅広い分野で目立ってきています。それに伴い、〈差別〉も……。


WSS-500-5.jpgアメリカでは、民主党(反トランプ)と共和党右派(トランプ支持)との間で抜き差しならない緊張状態が続いており、もはや収拾できない様相です。だからこそ、この作品でスピルバーグは〈分断〉の愚かしさを訴えようとしたのではないでしょうか。マイナスになることはあっても、決してプラスにならないと。その意味で、単なるエンタメ作品ではなく、社会性を帯びた映画とぼくは受け止めています。


ベトナム戦争が始まる前の、まだ健全だったころのアメリカ。当時の熱く、自由な息吹が歌とダンスを通じてビンビン伝わってきました。それはオリジナル作への深いリスペクトを込めてブラッシュアップされていたからでしょうね。


試写を観たあと、ハイテンションがさらにハイになり、年甲斐もなく、指を鳴らして歩いている自分がいました。しかし手が乾燥していて、指が鳴らなかった!!

 

武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト: http://Movies.co.jp/WestSideStory

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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