原題 | 原題:Ich bin dein Mensch 英題:I‘m Your Man |
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制作年・国 | 2021年 ドイツ映画 |
上映時間 | 1時間47分 PG-12 |
原作 | 原作:エマ・ブラスラフスキー |
監督 | 監督・脚本:マリア・シュラーダー(『WE ARE X』、『JACO[ジャコ]』) 共同脚本:リーザ・ブルーメンブルグ |
出演 | ダン・スティーヴンス(『ダウントン・アビー』『美女と野獣』)、マレン・エッゲルト、ザンドラ・ヒュラー(『ありがとう、トニ・エルドマン』『希望の灯り』)、ハンス・レーヴ |
公開日、上映劇場 | 2022 年 1月 14 日(金)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、他全国ロードショー! |
受賞歴 | 第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀主演俳優賞)受賞!(マレン・エッゲルト) |
アンドロイドと人間の微妙なズレの可笑しさ。
理屈では割り切れない、心の機微を感じ合える新たな関係性
頭脳明晰で背の高いハンサムなジェントルマンが目の前に現れたら?しかも貴女のために豪華な食事を用意し生活環境を整えてくれる上に、的確なアドバイスまでしてくれる。さらにさらに、性的満足までもたらしてくれるなんて、もう完璧すぎる理想的な彼氏!でも、悲しいことにロボットなんです…されど侮るなかれ、高性能AI搭載の進化系アンドロイドなんです!
孤独な女性に愛をもたらすアンドロイドとのラブコメと思いきや、さすがドイツ映画!そんな陳腐な物語ではありません。人間本来の人生観や愛の根源を問う哲学的ハイクオリティなラブストーリーなんです!
ベルガモン博物館で楔形文字の研究に没頭するアルマ(マレン・エッゲルト)は、研究費を稼ぐためある実験に参加することになる。それは人型アンドロイドと3週間過ごすというもので、選ばれた10人の内の1人となったのだ。そこでテラレカ社の案内人(ザンドラ・ヒュラー)に紹介されたのは、背が高くハンサムなトム(ダン・スティーヴンス)。英国のTVシリーズ『ダウントン・アビー』の貴公子ぶりで世界的人気を博したダン・スティーヴンスが、その完璧なビジュアルを活かして観る者を魅了する。普通ならすぐにでもメロメロになるような彼氏だが、甘い囁きにも動じず、「所詮ロボット」と冷めた目で見るアルマだった。彼女のその冷静な反応ぶりは尊敬に値する。トムが早速故障しちゃう辺りは、ご愛嬌(笑)。
連れて帰っても部屋は別。「同じベッドで寝ないの?」と不思議がるトム。翌朝は、部屋を超スピードで片付ける様子を見て、「やっぱロボットだわ」と呆れた様子のアルマ。毎日豪華な食事を用意するが目もくれず、バラの花びらで満たしたバスタイムを用意したり、ロマンチックなシチュエーションを作ったりしても、一向に心を開こうとしない。彼女にとっては「トキメキも愛も思考の邪魔」でしかないのだ。
ある日、トムの指摘でアルマが主導する3年掛かりの研究がブエノスアイレスのチームに先を越されてしまったことを知る。絶望のあまり落ち込むアルマ。問題点を指摘し、今後の方針まで示唆し、アルマの心理面の分析までしてしまうトム。さらに、元カレの彼女が妊娠したことを知りショックを受ける。実はアルマには悲しい過去があった。「疎外感を感じたの?」と、アルマを慮って発したトムの言葉に、さらに寂しさをつのらせて家を出てしまうアルマ。トムは決してステレオタイプのロボットではないのだが、あまりにも的を射た意見を突き付けるので、アルマを苛立たせるのだ。アルマを探し回るトム…。
そして、苦悩のどん底から救い出してくれたトムと幸せな一夜を過ごしたアルマは、トムのために朝食を用意しようとする。だが、トムはロボット。食事は不要なのだ。心を許し、愛し合えると思っても、相手はロボット。茹で上がった卵を流水で冷やしながら、アルマの目から涙があふれ出る。アルマを演じたマレン・エッゲルトの内奥からの虚しさと悲しみが入り混じった心情がひしひしと伝わってきて、胸を締め付けられる。第71回(2021年)ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀主演俳優賞)がジェンダーレス(男女同一)となって、彼女が初めての受賞者となったのも頷ける秀逸の演技だ。
高性能AI搭載のアンドロイド——「人を幸せにするロボット。それに何の問題があるのか?人間はボタンひとつで夢を実現させてよいのか?実現していない夢や、想像力や果てなき幸福の追求こそが、人間の根源ではないのか?ロボットに依存してしまうと、普通の人間と付き合えなくなってしまう。」というアルマの問いに頷きながらも、どこか期待してしまうのは筆者だけではないはず。淋しさに耐えかねて温もりを求め、自分でも分からないことを理解してくれる上に、人間が心を開き愛すればそれに応えて進化していくAI。それは、相手がAIロボットに限らず、人間に対しても同じことなのかも知れない。愛されたいと思うなら、まず相手を愛そう。理解してほしいと願うなら、相手のことも理解しよう。忘れがちな生きる上での大切な要素を教えてくれているようだ。ラストの粋な計らいにも「愛」を感させてくれる。
(河田 真喜子)
公式サイト: http://imyourman-movie.com
配給:アルバトロス・フィルム
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