原題 | 原題:RETFÆRDIGHEDENS RYTTERE|英題:RIDERS OF JUSTICE |
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制作年・国 | 2020年 デンマーク・スウェーデン・フィンランド |
上映時間 | 1時間56分 PG12 |
監督 | 監督・脚本:アナス・トマス・イェンセン(『アダムズ・アップル』『未来を生きる君たちへ』『真夜中のゆりかご』『悪党に粛清を』) 撮影:キャスパー・トゥクセン 音楽:イエッペ・コース |
出演 | マッツ・ミケルセン(『アナザーラウンド』『残された者 北の極地』『アダムズ・アップル』『悪党に粛清を』『偽りなき者』)、ニコライ・リー・コース、アンドレア・ハイク・ガデベルグ、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロ、グスタフ・リンド、ローラン・ムラ |
公開日、上映劇場 | 2022年1月21日(金) ~新宿武蔵野館、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー |
~北欧のファンタジック・バイオレンス~
舞台は北欧、はじまりはとびきり幻想的だ。クリスマスムード漂う街、荘厳な讃美歌の調べがこだまするなか自転車を買いに来た祖父と孫の姿が浮かび上がる。彼らは一体何者なのか?場面は切り替わり、今度はデンマークの森の中の一軒家に住む母子の姿。軍人のお父さんは遠くアフガニスタンの空の下。駐留が延長になったと知り落胆した母子は、予定を変更して普段乗らない列車に乗り衝突事故に遭う。その上、たまたま譲られて座った席は被害がひどく母親は命を落としてしまう。いくつもの偶然が重なった結果、最悪の事態を招いたのだ。しかし、それは本当に偶然だったのか・・・。その場に居合わせ、しかも席を譲った張本人の数学者は事故の原因に疑問を持つ。それがいつしかマフィアを相手取っての銃撃戦に発展するとは誰が想像しただろうか!
長閑な風景のなか一人ハードボイルドな軍人マークスを演じるのはアカデミー賞(国際長編映画賞)受賞作「アナザーラウンド」での好演も記憶に新しいマッツ・ミケルセン。監督のアナス・トマス・イェンセンとは本作で5作目となる名コンビだ。脇を固めるイェンセン組常連が抜群の安定感で演じるのは実にユニークな面々。レナート(ラース・ブリグマン)の特技はハッキング。喋りだしたら止まらないのが玉にキズだ。巨漢のエメンタール(ニコラス・ブロ)はハイテク機器を駆使しての画像解析を得意とする頭脳班。数学者のオットー(ニコラス・リー・カース)は悲しい過去と古傷を抱えつつ仲間たちの中和剤的役割をつとめている。やや社会性に欠けひと癖もふた癖もあるが、ハートは誰よりも熱い男たちの物語はデンマークのアカデミー賞と言われるロバート賞で4冠に輝いた。
徐々に過激さを増すストーリーのなかにもユーモアが散りばめられていて、レナートがマークスの娘マチルデ(アンドレア・ハイク・ガデベルグ)にカウンセリングをするくだりは傑作。グッタリすることも多いけど今日も1日生き延びた、プシュッと抜く缶のプルリング音は福音だ。人生うまくいかないことの方が多かった覇気のないおじさんたちでも、許し合い励まし合える存在をみつけたとき想定外の力が生まれるというもの。マシンガントークのレナートが本物のマシンガンをぶっ放すシーンは痛快そのもの。そうして、それまで暴力でしか痛みを表現できなかったマークスも、彼らと行動を共にするうち自分の弱さを認められるようになってゆく。
また、この映画の重要な核となるのがアルゴリズムと讃美歌。アルゴリズムとはプログラミング言語として使われることが多いが、広義には課題を解決するための処理手順を指す。オットーが冒頭で企業向けにプレゼンしているのもアルゴリズムなら、母の死を受け入れられないマチルデが事故までの行動を書き出してどこに原因があったのか割り出そうとするのもアルゴリズム。そして実はこの映画全体にもアルゴリズムの魔法がかけられていたようで・・・監督は言う、たとえ無関係でも無意味とは限らないと。プロローグとエピローグにはそんな監督の遊び心が込められている。また、要所要所で流れる讃美歌がドラマをいっそう盛り上げる。曲名はズバリ「荒野の果てに」。彼らの奮闘ぶりがまるで西部劇のように思えて笑ってしまった。彼らが荒野の果てに辿り着いた聖地をぜひその目で確かめてほしい。ファンタジーで、バイオレンスで、ヒューマンな大人のための寓話にうっとり、びっくり、ほっこりすることうけあい。
【アナス・トマス・イェンセン監督(右から3番目)と出演者たち】
(山口 順子)
公式サイト: https://klockworx-v.com/roj/
配給:クロックワーク
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