制作年・国 | 2021年 日本 |
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上映時間 | 1時間21分 |
監督 | 監督・企画・編集:宮岡太郎 脚本;マキタカズオミ |
出演 | 萩原みのり、柊瑠美、木口健太/田口智也、梅舟惟永、花戸祐介、秋山ゆずき、後藤剛範 |
公開日、上映劇場 | 2021年12月3日(金)~新宿シネマカリテ、12月17日(金)~テアトル梅田、2022年1月14日(金)~出町座 他全国順次公開 |
負のスパイラルに陥った人間の“成れの果て”
癒しがたい憎悪に支配された人生と訣別するために
田舎で暮らすあすみ(柊瑠美)は、疎遠になっている妹・小夜(萩原みのり)に恐る恐る電話を掛ける。結婚予定だと告げると素直に喜んでくれる小夜だったが、相手の名を聞くと突然凍り付き……冒頭から“一体何があったの?”と得体の知れない緊張感に惹き込まれる。そして、小夜の突然の帰郷で一気に憎悪剥き出しのバトルが展開される。鋭い眼差しの奥に悲哀を感じさせる萩原みのりを始めとする俳優陣が、それぞれが置かれた切迫した状況を痛快に魅せていく。本作が一元的な憎悪劇に終始せず、負のスパイラルから抜け出そうとするかすかな希望を感じさせる所以であろう。
それにしても、姉が自分をレイプした男・布施野(木口健太)と結婚すると聞いた時の小夜の衝撃はどれ程だっただろうか。姉は事情を知った上でその男を好きになったのだ。東京でデザイナーを志すも上手くいかず、結婚したい人ができても破談になり、憎しみを抱えたまま行き詰まりを感じていた小夜。姉の結婚はとても許しがたいこと。特に、布施野に対しては、「自分だけ幸せになるなんて絶対に許さない!」と、射抜くような鋭い視線を向ける小夜。だが、その事で生き辛い日々を送っていたのは小夜だけではなかったのだ――。
本作は、マキタカズオ主宰の舞台「成れの果て」を観た宮岡太郎監督が、人間同士がぶつかるエネルギーに圧倒されて映画化を希望したという。丁々発止のテンポの良さは練られた戯曲がベースになっていることもあるのだろうが、投げ掛けられた言葉に呼応するように捉えた各キャラクターの表情が言葉以上に多くを物語っている。
例えば、突然帰って来た小夜に驚くシーン。姉や友人たち、そして事件以来8年ぶりに会う布施野の究極の気まずい表情がいい。それから、レイプ事件を小説のネタにしたいからと布施野の友人とその恋人(秋山ゆずき)が訪ねてくるシーンは傑作だ。まるで他人の傷口をえぐるような残酷さで質問責めにする女のあまりの無神経ぶりが実に可笑しいのだ。そして、主役の萩原みのりが理解できないという小夜が最後にとった行動のシーン。憎しみのあまりとんでもない事をしようとするが、その残酷さに耐えきれず慟哭する小夜と、悔恨に打ちひしがれる布施野の悲痛な表情。「小夜を守りたい」という想いで演じた萩原みのりが真骨頂を見せる。
東京で憎しみに支配されたような日々を送って来た小夜と、屈辱に耐えながらも地元で生きて来た布施野、さらに妹のせいで貧乏くじを引いていると思い込んでいる姉のあすみ。そんなあすみを想い続けても受け入れられない幼なじみ。なりふり構わず婚活に励むあすみの友人。それぞれが、救われたい、この苦しみから逃れたい、癒されたいと心の叫びを露呈する。
逃げてばかりでは過去と決別できない。正面からぶつかってみなければならないこともある。それはとても勇気の要ることだ。だが、それが生きるエネルギーとなって、新たな人生のステージに進めるのは確かなことだろう。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://narenohate2021.com/
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