原題 | 原題 Varldens vackraste pojke(英題 the Most Beautiful Boy in the World) |
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制作年・国 | 2021年 スウェーデン |
上映時間 | 1時間38分 |
監督 | クリスティーナ・リンドストロム&クリスティアン・ペトリ |
出演 | ビョルン・アンドレセン、ルキノ・ヴィスコンティ、池田理代子他 |
公開日、上映劇場 | 2021年12月17日(金)~シネ・リーブル梅田、イオンシネマシアタス心斎橋、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
~伝説の映画に抜擢された美少年の、その後の人生に迫る~
ビョルン・アンドレセンといえば、『ベニスに死す』。これはもう条件反射的につながっている。だが、その後、彼の姿をスクリーンで大々的に見ることがなく、何十年もの歳月が流れた。そして、『ミッドサマー』(2019年/アリ・アスター監督)という映画のキャストに、ビョルン・アンドレセンの名前を見つけて驚いた。1971年の『ベニスに死す』から約半世紀。変貌しているのは間違いないとわかっていても、やっぱり驚いた。この映画で、彼の出番は非常に短いのだが、その老人が彼だと認識するのに時間がかかった。「渋い」を通り越して、苦労の跡が刻まれたかのような老いっぷりだ。いったい、あの『ベニスに死す』の後、何があったのか。それを解く鍵が、本作の中にある。
トーマス・マンの自伝的小説『ベニスに死す』を、イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督で映画化されることになり、そのオーディションの時の映像が冒頭にあるのだが、これは衝撃的だ。ヴィスコンティは、物語の要となる美少年タジオを演じる少年を探していた。世界のあちこちを探し回り、スウェーデンのストックホルムでついに「この子だ!」という少年と出会う。それが、当時15歳のアンドレセンだった。その美貌に目を釘付けにされているかのようなヴィスコンティだが、身長が高すぎるとしきりに気にしている。彼のイメージでは、もう少し年少の男の子を求めていたようだ。「上半身、裸になってくれ」と指示されてびっくりするアンドレセンの表情が印象的。だが、決まった。映画界のことなど何も知らない内気なビョルン少年が一線を越えてしまった瞬間といえよう。
このオーディションに始まり、撮影風景、映画完成後の大ブレイク、来日時のファンの熱狂などが、過去のアルバムをめくるように映し出される。日本では、甘口のポップソングを日本語で歌わされ、明治チョコレートのコマーシャルにも出演していた。漫画家・池田理代子はヒット作『ベルサイユのばら』に出てくる男装の麗人オスカルのモデルとして、アンドレセンに注目したと語る。だが、一般の目の届かない場所で、「性的搾取」がこの世間知らずの少年に襲いかかっていたのだ。ヴィスコンティはアンドレセンを連れ回し、そしていきなり見捨て、二度と振り向きさえしなかった。また、複雑な家族事情も明かされ、それがビョルン少年にどんな影響を与えたのかと、観る方はどんどん過去の彼の裏側を探りたくなってくる。
一方、現在のアンドレセンの生活にカメラは密着していく。恋人も辟易するほどの乱雑な部屋に住み、ガスのつけっぱなしを繰り返して大家から立ち退きを迫られているのだが、彼は悲観しているようには見えない。仙人のような風貌のせいもあろうが、何だか、飄々としている。15歳で名作と呼ばれることになる映画に出演し、カリスマ的な美貌ゆえにあれこれあっただろうと想像させられるが、彼の人生は“その後”のほうが長かった。そして、その道はまぶしいスポットライトを浴びるような道ではなかった。
子役を食いものにした映画産業という側面ももちろんあるだろうし、アルコール中毒や鬱病もあったらしく、それが彼の老いを加速させたのかもしれないが、悲劇の主人公のように描いていないところがいい。とにかく、現在の彼は淡々としている。そして、けっこう人間くさい。そりゃあ、あのヴィスコンティに出会わなければ、彼は全く違う人生を送っただろうが、そっちが格段に幸せだったかどうかは神のみぞ知る、だ。そんなふうに、彼も含めたすべての人々の、多様な生の行く末についていろいろ考えさせる作品だと思う。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/most-beautiful-boy/
配給:ギャガ
©Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021