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『COME & GO カム・アンド・ゴー』

 
       

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作品データ
原題 Come and Go
制作年・国 2020年 日本・マレーシア
上映時間 2時間38分
監督 リム・カーワイ(『新世界の夜明け』『Fry Me To Minami 恋するミナミ』)
出演 リー・カンション、リエン・ビン・ファット、J・C・チー、モウサム・グルン、ナン・トレイシー、ゴウジー、イ・グァンス、デイヴィッド・シウ、千原せいじ、渡辺真起子、兎丸愛美、桂雀々。尚玄、望月オーソン、天上純他
公開日、上映劇場 2021年12月3日(金)~テアトル梅田、12月4日(土)~シネ・ヌ―ヴォ、12月10日(金)~京都シネマ、近日~出町座、2021年1月14日(金)~シネ・リーブル神戸、1月28日(金)~宝塚シネ・ピピアほか全国ロードショー

 

~大阪・キタですれ違っていく、いくつもの国籍と人生の明暗~

 

旅する映像作家と呼ばれるリム・カーワイ監督による、大阪三部作の最終話。『新世界の夜明け』(2012年)、『Fry Me To Minami 恋するミナミ』(2013年)に続き、今回は、ビジネス街の顔を持つキタを舞台に、アジア9か国・地域の人々の多様な生のかたちを切り取る。


大阪・キタで最も賑やかな梅田からほど近い中崎町の古いアパート。そこに住んでいた老婦人の、白骨化した死体が発見される。警察がやって来て、調査が行われ、周囲の住民への聞き込みも始まる。この事件は、その後に語られるいくつものエピソードの通奏低音のようだ。誰にも気づかれず、どんな日常を送り、どうして亡くなったのか。すぐそばに住んでいる人たちも、彼女のことは何も知らないし、知ろうともしなかった。


comego-500-2兎丸愛美.jpeg日本で、苛酷な労働条件で働いている外国人がいるかと思えば、日本人を相手に一儲けしようと勇んで訪日する外国人もいる。それぞれにそれぞれの事情があり、この日本に暮らしている日本人だって、それぞれの事情を抱えている。この当たり前のことが、「理解」という方向でなく、「無関心」という方向に進んでいるのが現代なのだ。「袖振り合うも多生の縁」だなんて、今やもう古くさい物置の奥にしまい込まれてしまったのだろうか、と思うと、やはり寂しい気持ちになってくる。


さまざまな民族・人種が行き交う場所で、損得勘定なしで、人はどれほどの熱意を持って、人と対峙できるだろうか。リム・カーワイ監督が私たちに問いかけてくるのは、そういうことなのではないだろうか。とはいえ、この映画は「激しい」とか「悲しい」という言葉とは距離がある。どこかとぼけていて、思わず笑っちゃうし、どこか切なくて、でも人生ってそういうもんなんだよねえと思ったりもするのだ。


comego-500-1リー・カーション.jpeg台湾の名匠ツァイ・ミンリャン監督の全作品で主役を演じている台湾のリー・カンションが、アダルト関連ショップを徘徊するAVオタクの役で出ていて、これが妙にハマっているのがおかしい。そのほか、マレーシア、ネパール、ミャンマー、ベトナム、韓国、香港、中国、そして日本の、それぞれの国で名を知られ、活躍している演技者を集め、アジアンテイストのごった煮的大阪を表現した監督の、まっすぐな思いと、飄々とした感性が伝わってくる。ある程度のシチュエーションだけ決め、撮影現場ではほぼ即興で演出するというやり方で作り上げた2時間半越えの本作だが、観る者をその世界に引きずり寄せてしまう。これはもう老練ともいえる手腕だ。む、む、恐るべし、リム・カーワイ!

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/comeandgo

配給:リアリーライクフィルムズ、Cinema Drifters

©cinemadrifters

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