制作年・国 | 2021年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
監督 | 【脚本・監督】:堀江貴大 【劇中漫画】:アラタアキ 鳥飼茜 【音楽】:渡邊琢磨 【主題歌】:「プラスティック・ラブ」 performed by eill |
出演 | 黒木華 柄本佑/金子大地 奈緒/風吹ジュン |
公開日、上映劇場 | 2020年9月10日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都 ほか全国ロードショー |
バレてますよ、その不倫。リアルかフィクションか?
ぜんぶ漫画に描いて夫を出し抜く、鮮やかな妻の復讐劇!
不倫、妻の復讐といってもドロドロとしたチープな物語ではない。漫画家夫婦らしく、「本当は知っているのよ」とか「私もこんなことしているのよ」と、夫の不倫や自分の心境の変化などを漫画に描き込んでは夫を心理的に追い詰めていくのだ。果たして「本当に妻は…?」、それとも「妻の妄想なのか?」と、1話ずつ仕上がる妻の原稿を見る度に“冷や汗たら~り”の夫の震撼ぶりに目が離せなくなる。さらに、安易な予想を許さない心理戦と、多くの意味合いを含ませたラストに至るまで、かつてない妻の心の余事を含ませた面白さでワクワクさせてくれる。
現在33歳の堀江貴大監督は、結婚を機に「シリアスだがコメディ色のある不倫モノを描きたい」と思ったらしい。短編映画『はなくじらちち』では疎遠になっている父を訪ねる娘とその恋人を描いていたが、素直に言葉にできない親子に寄り添う優しい恋人の存在が印象的だった。本作でも、夫の不倫を知りながらも激しく責める訳でもなく、夫の出方を静かに見守るという妻の内心に注目しながらも、それを漫画というツールで表現していく。リアルなのか妻の妄想なのか?妻の本心を推し量れぬ夫の恐怖といったら…?
かつては夫の俊夫(柄本佑)の方が売れっ子だった漫画家夫婦。今では妻の佐和子(黒木華)が描く原本を仕上げるのが夫の役目。共同作業は順調だったが、夫と編集者・千佳(奈緒)との不倫を疑う佐和子にとって不安な気持ちは拭い去れない。そんな時、佐和子の田舎で独り暮らしをしている母親(風吹ジュン)が交通事故で怪我をしたという知らせがくる。そこで、二人は母を助けるためにひと夏を実家で過ごすことにする。
緑溢れる実家での暮らし、大らかで優しい母の元で俊夫も佐和子も穏やかな日々を送っていた。急に佐和子が運転免許をとりたいと、教習所へ通うことになる。だが、心理的ストレスからかアクセルが踏めず、運転恐怖症だと言われる。思い悩む佐和子の前に現れたのが若い教官・新谷(金子大地)だった。佐和子の恐怖を和らげるため優しく丁寧に、その言葉のひとつひとつが佐和子の心に沁み込んでいく。夫への不信感、不安、孤独を優しく包み込んでくれるのだ。普通なら「こんな甘い言葉を真に受けるの?」と疑うところだが、今の佐和子には砂が水を吸収するより速く浸透してしまうのだった。
急に思いの丈を吐き出すように漫画を描き始めた佐和子。それを夫が目にしてびっくり!自分の不倫が詳細に描かれているではないか!「知ってたのか?」いや「バレてたのか!?」。それからというもの、佐和子が描く原稿が気になって仕方がない俊夫。二人を心配する母の想いとはよそに、東京から新作の様子が気になった不倫相手の編集者・千佳までもがやって来る。さらに、教習所の若くイケメンの教官と佐和子との恋物語が進展し、もう俊夫は嫉妬で焦りまくる!
秘めた想いを胸に黙して語らない佐和子を演じた黒木華。その可愛らしくにこやかな表情からは想像もつかない芯の強さが夫を心理的に追い詰め、見事なまでに鮮やかな復讐劇へと昇華する。決して夫への仕返しだけが目的ではない。夫の才能を認めつつもやる気を引き出す妻の想いも、本作の後味が良い理由だろう。タイトルにある「先生」とは誰のことか?主な登場人物は5人しかいない。このミニマルな人間関係でこれ程の大きな愛のカタチを表現してみせた堀江貴大監督に脱帽だ!
(河田 真喜子)
公式サイト: https://www.phantom film.com/watatona/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©20 21 『 先生、 私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会