原題 | 原題 16 Printemps(Seize Printemps) |
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制作年・国 | 2020年 フランス |
上映時間 | 1時間17分 |
監督 | スザンヌ・ランドン |
出演 | スザンヌ・ランドン、アルノー・ヴァロワ、フレデリック・ピエロ、フロランス・ヴィアラ、レベッカ・マルデール他 |
公開日、上映劇場 | 2021年9月3日(金)~シネ・リーブル梅田、9月10日(金)~京都みなみ会館、9月11日(土)~元町映画館ほか全国ロードショー |
青春の影の中できらめく、小さくて愛おしい光を見つめて
エンド・クレジットを眺めながら、「遠い昔、あたしはどんな少女だったのだろう?」…ふと、そんな思いがこみあげてきた。この映画のヒロインは、遠い昔の私であるとともに、全く違う人生を送るであろう別の少女である。相反することだが、どこか懐かしく、どこかが違う。いや、全然違う。それなのに、親しい。「わかるよ」と、背中をぽんぽんとたたきたくなった。
16歳のスザンヌ(スザンヌ・ランドン)は、両親と姉とともにパリで暮らす高校生だが、学校生活はため息と不満の連続だ。男でも女でも、クラスメートの中に心を許せる者はおらず、どうでもいいことばかりを喋り散らす彼らが退屈でしようがない。時にはイライラをぶちまけたくなるが、なんとか抑えている。周囲との違和感を募らせるそんなスザンヌの日常に、ある日、一人の人物が入り込んできた。それは、青年の盛りを越え、やはり日常の退屈をもてあましていた舞台俳優のラファエル(アルノー・ヴァロワ)だった…。
早熟の天才と熱い視線を浴びているのが、脚本・監督・主演の3役をこなしたスザンヌ・ランドン、2000年生まれ。俳優のサンドリーヌ・キベルランとヴァンサン・ランドンの娘である。15歳の時に書いた脚本をもとに、19歳で映画製作に取り掛かったという。アドバンテージのある環境だったかもしれないが、それにしても簡単に実現できることではない。映画を観ている間ずっと、スザンヌの表情に“あのひと”の面影を探していた。ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールとの間に生まれたシャルロット・ゲンズブールだ。同じように芸能一家に育ち、才能を早く開花させ、『なまいきシャルロット』という愛すべき作品も残した。どちらも正統派美人というわけではないが、何かしら人の目をつかんで離さないところがある。
本作では、印象的なシーンがいくつか出てくるが、一番は、ヴィヴァルディの曲に合わせ、スザンヌとラファエルがぴたりと息の合った上半身のみのダンスを見せるところ。監督スザンヌは、言葉よりも表情や身体で表現したいものがいっぱいあるようで、通い合ったふたつの心を自由闊達に描いている。また、スザンヌがラファエルに見せる恥じらいの表情が、なんともまぶしいほどの青春色だ。母親(フロランス・ヴィアラ)には「恋をしてるの!」と打ち明けて抱きつき、思春期の娘を相手にとまどっている父親(フレデリック・ピエロ)にはテキトーな返事でその場を切り抜けるという、この時期の少女の普遍的な態度にも共感してしまう。
映画や演劇、音楽、書物など、さまざまな作品のエッセンスが使われ、あるいは言及されていて、そういう場合、映画評では常套句的に“オマージュ”という言葉が使われるのだが、それよりも、好きなものをあれこれ入れ込んじゃったという若さが感じられて、それはそれで微笑ましいのである(鏡の前でお化粧するシーンでは、映画『小さな恋のメロディ』を思い出した…)。最後のスザンヌの意味ありげな笑顔、この終わり方の潔さに、今後の活躍を予想させるセンスを感じた。
(宮田 彩未)
公式サイト: http://suzanne16.com/
配給:太秦