制作年・国 | 2021年 日本 |
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上映時間 | 114分 |
監督 | ・脚本:タナダユキ |
出演 | 高畑充希 柳家喬太郎 大久保佳代子 甲本雅裕 佐野弘樹 神尾 佑 竹原ピストル 光石 研/吉行和子他 |
公開日、上映劇場 | 2021年9月10日(金)~テアトル梅田、イオンシネマ シアタス心斎橋、京都シネマ、9月17日(金)〜シネ・リーブル神戸他全国公開 |
~福島・朝日座を舞台に、映画と映画館を愛する全ての人に贈るものがたり~
約1世紀にも渡って営業を続けてきた福島県南相馬の朝日座。映画が無声からトーキーに変わり、戦争を経て映画が娯楽の時代、高度経済成長で娯楽の中心がテレビに変わり、さらにはビデオ、デジタル配信と、幾重もの危機を乗り越えてきただろう。私は先ごろ責任編集として携わった、今年で11周年を迎えた神戸の元町映画館の歴史を綴った「元町映画館ものがたり 人、街と歩んだ10年、そして未来へ」(元町映画館出版プロジェクト)を上梓したばかりだが、この大先輩の映画館の風貌を見ただけで、その歴史がぐわっと胸に迫ってきた。本作は、祖父の代から守ってきた映画館をついに閉める決意をした支配人の前に、「映画館を守る!」と豪語する若い女が突然やってきたことからはじまるものがたり。タナダユキ監督(『ロマンスドール』『ふがいない僕は空を見た』)によるオリジナル脚本には映画や映画館愛だけでなく、東日本大震災後の地域や家族内の分断も描かれる。何が正しいかわからない混迷の中を生きる私たちに、小さなともしびを見せてくれるような作品だ。
赤字経営にコロナが追い打ちをかけ、朝日座を閉館することを決意した支配人の森田(柳家喬太郎)。意を決してフィルムを焼いているところに、茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)がタンカを切って乗り込んできた。取り潰して街の人を雇用できるスーパー銭湯になると聞き、莉子は映画館を絶対無くしてはいけないと行動をはじめる。そんな莉子こそ、恩人のおかげで映画と出会い、人生が変わったことを、身をもって体験した一人だった。
「おいオッサン!」とタンカをきる威勢のいい莉子と森田との丁々発止のやりとりを交え、取り壊し阻止に奮闘する現代パートと、東日本大震災後家業で儲けたことが逆に友達と疎遠になる原因となり、母にも省みられなくなった莉子が、映画オタクの茉莉子先生(大久保佳代子)との出会いで自分の居場所を獲得していく過去パートを交差しながら、なぜ莉子がそこまでして映画館を守ろうとするのかが次第に明らかになっていく。特に、莉子と茉莉子の関係は、昨年大ヒットした韓国映画『はちどり』の中学生の主人公ウニ(パク・ジフ)と塾講師の大学生ヨンニ(キム・セビョク)の関係と重なる気がする。家庭や学校で居場所のない莉子を家族の呪縛から解き放ち、映画という新しい世界の扉を開いてみせた茉莉子先生。大久保佳代子のちょいエロキャラそのままの、はみだし教師ぶりも見ものだ。
街の映画館がなくなってしまってからでは遅い。街の映画館を守るのは誰なのか。コロナで直面したことがそのまま映画の中に落とし込まれ、映画館だけでなく、人が生きるのに何が必要なのかという日々突きつけられることをしみじみと考えさせられる。かと思えば、カタカタとフィルム映写機が動く中、リリアン・ギッシュの『東への道』や『キートンのマイホーム』などの無声映画の上映シーンやお客さまが戸惑い顔で帰っていくような残念すぎるプログラム!?など、往年の映画ファンが懐かくなるような仕掛けもふんだんに盛り込まれている。街の映画館の存在意義といえば少し硬い言い方になるが、どんな場所であれば、お客さまが足を運びたくなるのか。居場所になれるのか。莉子たちの闘いはまだまだ始まったばかりだ。
(江口由美)
公式サイト⇒:hamano-asahi.jp
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