原題 | 原題:Ete 85/英題:Summer of 85 |
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制作年・国 | 2020年 フランス |
上映時間 | 1時間41分【PG-12】 |
原作 | エイダン・チェンバーズ(「Dance on my Grave(おれの墓で踊れ)」徳間書店) |
監督 | 監督・脚本:フランソワ・オゾン (『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』『8人の女たち』、『スイミング・プー ル』『ぼくを葬る(おくる)』) |
出演 | フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー |
公開日、上映劇場 | 2021年8月20日(金)~新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamuraル・シネマ、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国順次公開 |
運命の出会いから永遠の別れまでの6週間。
濃密な時を過ごした忘れ得ぬ夏の日の思い出
生涯忘れ得ぬ煌めくような恋のひとときを過ごしたことがあるだろうか?それが悲恋に終わろうと、そんな経験をできただけでも幸せだと思う。
さて、作品毎に全く違う世界観で魅了するフランソワ・オゾン監督。彼の最新作は、映像作家として自身の原風景が少年同士の狂おしくも美しく儚いひと夏の恋に収斂されているような作品である。監督は17歳の時に原作「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ)に出会い深く影響を受けたらしいが、自分自身を反映しているようでかなりの衝撃だったのではと想像する。そして、50歳過ぎて満を持しての映画化。そこには、二人の新人俳優の瑞々しさや青い海のきらめきも、若き日のフランソワ少年の切ない初恋のプレイバックのようで、センチメンタルな想いが沸き起こる。
冒頭、警察官に挟まれて怯える少年が映る。一体何をしでかしたというのだ?「なぜあんな事をしたの?」と動機を問い質そうとする大人たち。どう説明すればいいのか分からず黙秘する少年に対し、担任教師(メルヴィル・プポー)は彼の文才を見込んで、小説として書くことを勧める。こうして、アレックスとダヴィドとの運命の出会いから永遠の別れまでの6週間が綴られていく。
1985年の夏、フランスのノルマンディーにある小さな海辺の町に住む16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)は、小さなヨットで一人沖に出たところ、急な嵐で転覆してしまう。そこへ颯爽と現れたのがダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)だった。何という運命的な出会いだろう。正に救世主のように登場した美しいダヴィドに魅了されないはずがない。アレックスにとって、初めて恋をした相手がダヴィドだったのだ。
それからというもの、二人は急接近。いい友人ができたと喜ぶダヴィドの母(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)はアレックスを大歓迎。彼女が営む店でアルバイトまでさせてくれる。お互いの想いがつのり惹かれ合い、片時も離れたくない。だが、まだ同性愛者への理解がない時代。おおっぴらに恋人として振舞えず、人目を忍んで愛し合う二人。ある時ダヴィドがアレックスに「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という変わった誓いを立てさせる。
初めての恋に狂おしい程のめり込むアレックスに対し、ダヴィドはアレックスを愛しながらも自由奔放に振舞っていた。猜疑心から嫉妬にかられるアレックスは、とうとうダヴィドと大ゲンカしてしまい、悲劇が起きてしまう――最期の別れもできず、後悔と絶望に打ちひしがれるアレックスは、ダヴィドとの誓いを果たそうとして……。
まだ16歳のアレックスが、初めての恋に身を焦がし、ダヴィドの愛だけにすがり着くあまり彼の背信行為に敏感になる様子がひしひしと伝わってくる。アレックスを演じたフェリックス・ルフェーヴルは、オーディションに参加したもののまさか主役を演じるとは思わなかったらしい。その無欲さが真っ直ぐで純粋なアレックスの演技に結びついているようだ。一方、魅惑的なダヴィドを演じたバンジャマン・ヴォワザンも、危うく刹那的な雰囲気を醸し出している。
劇中流れるロッド・スチュワートの「Sailing」がまたいい。若い頃の熱情を思い起こさせ、懐かしさと同時に彼らの想いが重なって心に沁みてくる。まるで、フランソワ・オゾン監督によって1985年の頃に連れ戻されたような気になってしまった。
(河田 真喜子)
公式サイト:http://summer85.jp
公式Twitter/Instagram:@summer85movie
配給:フラッグ、クロックワークス
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