原題 | 英題:BARAGAKI UNBROKEN SAMURAI |
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制作年・国 | 2020年 日本 |
上映時間 | 2時間28分 |
原作 | 司馬遼太郎(「燃えよ剣」新潮文庫刊) |
監督 | 監督・脚本:原田正人(『関ケ原』『日本のいちばん長い日』) |
出演 | 岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、尾上右近、伊藤英明 他 |
公開日、上映劇場 | 2021年10月15日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX京都、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸、MOVIXあまがさき 他全国ロードショー |
~目を見張る太刀さばきで描く「滅びの美学」~
「おっ! これはすごい! ホンマもんや」。本作『燃えよ剣』のなかでチャンバラのシーンが何度も映りますが、そのつど岡田准一の太刀さばきにうならされました。型がバッチリ決まっており、じつにスピーディー。それでいてしなやか。
これまで殺陣の上手な俳優といえば、黒澤明監督の名作『用心棒』(1961年)でパワフルな立ち回りを披露した三船敏郎が第一人者と思っていました。それをはるかに超える技量の持ち主だと改めて実感した次第です。
原作は、国民的作家と呼ばれた司馬遼太郎の同名小説。500万部の大ベストセラーです。ぼくも何度か読み返しました。動乱の幕末、京都で組織された幕府側の刺客集団、新選組の副長、土方歳三の生きざまに熱く追っていきます。
尊王攘夷派が趨勢を増し、250余年続いてきた徳川幕府が滅びるのも時間の問題。そんななか6年間しか存続しなかった新選組は、幕末に咲いた「あだ花」のような存在で、そこにむしろ、「滅びの美学」が感じられるのです。
本作はこの小説の完全映画化です。岡田准一扮する土方歳三を軸にして、隊長の近藤勇(鈴木亮平)、前隊長の芹沢鴨(伊藤英明)、美男子剣士の沖田総司(山田涼介)ら個性的な新選組面々の行動を、桂小五郎(渕上泰史)、清河八郎(高嶋政宏)、岡田以蔵(村上虹郎)といった倒幕派の動きと対峙させ、じつに生き生きと映し出しています。血みどろの世界のなかで、土方と愛し合うお雪(柴咲コウ)が一輪のバラの花のように思えました。
このように豪華俳優陣が総出の久々の歴史スペクタクルです。エキストラが3000人以上、時代考証が完ぺきのこだわり抜いたオープンセット、かなりの時間を費やしたであろう各シーン……。原田眞人監督が渾身の力を込めて撮ったのが手に取るようにわかりました。はて、製作費はいかほど?
さらに新選組が尊王攘夷派を襲った池田屋事件、その後、討幕派と佐幕派がガチでぶつかった蛤御門(はまぐりごもん)の変、鳥羽・伏見の戦い、五稜郭の戦いという、いわゆる戊辰戦争の実情が、新選組の立ち位置を含めてよくわかりました。とりわけ詳細に再現していた池田屋事件のシーンは超見どころです。
映画をグイグイ引き込んでいく土方歳三の生き方に魅了されます。時代がいかに変わろうが、まったくブレないんですから。生まれ故郷の武州(武蔵国)から激動の京へ、そして会津を経て、北海道は箱館(函館)の五稜郭で散るまで、執念・意地ともいえる気概で佐幕を貫き通しました。負け戦であっても、自分の生き方を信じて突っ走る。そこに夢を追い求めるロマンがほとばしっていました。こんな人物、大好きですねん。
とはいえ、クールでドライな面があります。新選組の気風や規則を乱す者、相性の合わない者は容赦なく断罪します。それも待ち伏せしたり、姑息的な手段を使ったりして。百姓出身で、武士ではないというコンプレックスを払拭させるべく、武士になろうとムキになり、その結果、どんどんストイックになっていたのかもしれませんね。こんな上司がいたら、そらややこしいですよ。ケムたい。ぼくなら忖度ばかりして、ストレスで胃に穴が開いちゃいます(ウソです)。
そんな主人公になり切った岡田准一の立ち居振る舞いが何にも増して素晴らしい。翳りのある凛とした美しさ。それを具現化したのが冒頭で触れた立ち回りです。山田涼介や伊藤英明らの共演者に殺陣を指導していたというから、すごい! この人、3つの格闘技(武術)のインストラクター(師範)の免状を持っているんです。パッチもんやおまへん、ホンマもんですわ。もともと身体能力が高く、そこに武術が加われば、もう怖いモンなし。
原田監督とコンビを組んだ同じ司馬遼さん原作の『関ケ原』(2017年)で石田三成に扮し、馬上で見せた太刀さばきにぼくは目を見張りました。続いて木村大作監督の『散り椿』(2018年)でのクライマックスシーンの何とも華麗な殺陣。腰が見事に入っており、めちゃめちゃ速い。そして今回、さらに進化を遂げ、500パーセント安定感のある立ち回りを披露してくれました。ちょっと大げさかな~(笑)。
岡田准一は、映画に出演するたびに演技力をアップさせていますね。現代劇は申し分なく、時代劇でも今や十分、風格が出てきました。これからも〈肉体芸〉がまだまだ進化していくような気がします。次の時代劇がほんとうに楽しみ。そんなわけで、『燃えよ剣』は岡田准一さまさまの映画でした。司馬遼さんも天国で喜んではると思います。「ひらパー兄さん、ええ味出してくれはりましたな」――。
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト⇒ https://moeyoken-movie.com/
配給:東宝、アスミック・エース
(C)2020「燃えよ剣」製作委員会