制作年・国 | 2021年 日本 |
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上映時間 | 2時間59分 |
原作 | 村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊) |
監督 | 濱口竜介(『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』) 共同脚本:大江崇允 音楽:石橋英子 |
出演 | 西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、安部聡子、ソニア・ユアン他 |
公開日、上映劇場 | 2021年8月20日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば(本館・別館)、TOHOシネマズ二条、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
村上春樹原作の短編を見応え十分の179分大作に仕上げた、
その凄み!
この映画の原作「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収められていて、文庫版では50頁ほどだ。他の短編「シェエラザード」と「木野」のエピソードが加えられているといっても、ほぼ3時間の映像ドラマになるなんて、原作を読んだ人には信じられないことだと思う(蛇足だが、この短編集はいろいろ人生について悩む人に、ああ、そうなんだ!と感じられるような何かを含んでいて、どれもけっこう面白い)。アレンジ能力に秀でたクリエイティヴな感性、そしてものづくりにかける情熱を、近年、国内外から注目を浴びている濱口竜介という監督の仕事に実感することができた。
演出家であり舞台俳優である家福(西島秀俊)と脚本家の音(霧島れいか)は、親密な関係を結んでいる夫婦だ。ある日、出演した舞台の後で、家福は、音の作品に出演している役者の高槻(岡田将生)を紹介される。「奥様にはいつもお世話になっています」と挨拶する高槻は、笑顔の爽やかな好青年のように見える。ところが、家福にとって、青天の霹靂ともいえる出来事が起こる。ウラジオストックの演劇祭に招かれた家福は愛車の赤いサーブで空港へ向かったのだが、ウラジオストックを寒波が襲い、フライトがキャンセル。仕方なく、自宅に戻ると、音が男とベッド・イン中。衝撃を受けながらも気づかれぬように立ち去った家福の、心の傷をさらに深めたのは、その後、話すことがあると言った音が突然死してしまったことだ。
物語の前段はここまで。演劇祭での演出を任された広島で、専属ドライバーとして雇われたみさき(三浦透子)という若い女性と行動を共にすることから家福の中に生じる、紆余曲折の変化こそが、この映画の見どころだ。つらい少女時代を送ったはずなのに、斜に構えた露わな屈折感で人に対することはなく、寡黙だが、どこか飄々として、他人をあるがままに受け入れられるみさきという人物が私は好ましい。それから、音に心酔していたらしい高槻の存在も家福には大きい。彼によって、家福は自分の考えていたこと、感じたことを再検証させられるといってもいいから。
村上原作にはないのだが、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を、多国籍の役者、多言語、韓国手話まで用いて演じようとする稽古シーンは実に興味深い。この「映画内演劇」を背景に、家福の心の旅が始まる。けっこう比重のある演劇シーンが、私には家福と彼を取り巻く人々の気持ちを透き通らせ、そして希望を示唆するラストへと導いているように感じられた。ちなみに、新型コロナの影響で、ロケ地の変更を余儀なくされ、東京、広島、北海道、韓国で撮影。印象に残る場所がいくつか出てくるので、美しい映像とともに、じっくり楽しんでほしい。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://dmc.bitters.co.jp/
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会