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『ねばぎば新世界』

 
       

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作品データ
制作年・国 2020年 日本 
上映時間 1時間58分
監督 監督・脚本・プロデューサー:上西雄大(以下詳細参照) 撮影:前田智弘 下元哲 川路哲也 編集・音楽:ナ・スンチョル 編集:上本聡 制作:徳竹未夏 中村秀哉 主題歌:吉村ビソー「comme ca de大阪」
出演 赤井英和、上西雄大、有森也実、小沢仁志、西岡德馬、菅田俊、田中要次、坂田聡、徳竹未夏、古川藍、金子昇、神戸浩、長原成樹、リー村山、堀田眞三、伴大介、谷しげる、剣持直明、國本鍾建、上山勝也、柴山勝也、草刈健太郎
公開日、上映劇場 2021年7月10日(土)~K’s cinema、7月16日(金)~なんばパークスシネマ、MOVIX堺、京都みなみ会館、7月17日(土)~第七藝術劇場、8月7日(土)~13(金)元町映画館 他全国順次公開

 

~Vシネのノスタルジーと”どついたるねん”の華麗なる融合~

 

児童虐待をテーマに描いた「ひとくず」が国内外で好評を博した上西雄大監督の新作。うって変わってコメディタッチのバディものだ。今回も自ら監督・脚本・主演をつとめた。

W主演の赤井英和との相性もバッチリ、吉本新喜劇並みの掛け合いが二人の地元を舞台に繰り広げられる。また、赤井のグラブさばきも見られるのは往年のファンには嬉しいところ。「どついたるねん」(阪本順治監督)の頃は闘志をむき出しにした獣さながらだったが、今は懐の深さを感じさせるいい顔になった。撮影には赤井の実家も使用されたというから乞うご期待!


nebagiba-500-1.JPGカツキチ(赤井英和)は試合の前日に傷害事件を起こしてデビューをフイにした元ボクサー。ジムの経営を引き継いだものの、これも練習生の不祥事で畳むことになる。やむなく幼なじみの串カツ店で働くうち、元子分のコオロギ(上西雄大)と再会する。ひょんなことから二人は失語症の少年を保護し、生き別れの父親を捜すことに。さらには少年の母親をだました巨悪のカルト教団との対決へと発展する!


nebagiba-500-2.JPG.bmpキャストはVシネマの帝王・小沢仁志に菅田俊、田中要次、西岡徳馬と敵も味方も悪い顔のオンパレード、いやが上にも期待は高まる。脇を固める出演者の面々もユニークだ。山田洋二監督作品でおなじみの神戸浩がいい味出している。極め付けは串カツだるまの名物大将。出演は知らなかったがすぐに気が付いた。何故なら店舗前の人形とソックリだったから。吉村ビソーが歌うエンディング曲も作品の世界観とピッタリはまって曲名を確かめて思わずニヤリ。その名も「Comme ca de 大阪」。本編でも地元の名店がずらり登場するが徹底したナニワのフルコースに脱帽。これは大阪を離れて住む友人にも薦めなければ。


nebagiba-500-3.JPG.bmpそんなこんなで終始、肩の力を抜いて観られるのだが、そこに一匙の温かさを込めるのが上西監督流。少年の失語症とは別にコオロギの失読症のエピソードが登場するのだが、症状を和らげる為のある工夫が紹介されている。失読症とは学習障がいの一種。コオロギの場合は文字は読めるし覚えられるが、まとまった文章になると読めず幾度となく悔しい思いをしてきた。その積年の苦い思いがスッと溶けるようなひとコマがある。


nebagiba-500-5.JPGここで思い出すのは「ひとくず」の撮影エピソード。子役に虐待の疑似体験をさせたくなかった監督は「早く帰ってほしいと思ってカメラを見て」とか「嫌なものを見たような顔をして」という具合に演出をしたと言う。この監督、根底に人に対する限りない優しさと深いまなざしがあるのだ。今作でもその点は揺るがない。


nebagiba-pos.jpg題字から始まって、カツキチやコオロギの切る仁義、トラック野郎のポスター、そこかしこに古き佳き映画への愛が込められている。その全部はわからないけど、任侠映画世代、ビーバップ世代、そして”今日オレ”(「今日から俺は!」)世代。ディテールは変わっても男たちの熱い戦いは終わらない、そこに守りたいものがある限り。合言葉はネバーギブアップ!イケメンレンジャーもライダーも1人も出てこないけど、おじさんたちがカッコいい。いよいよ夏到来!何も考えず、頭をカラッポにして楽しみたい。

 

(山口 順子)

公式サイト:https://nebagiba-shinsekai.com/

制作:10ANTS  配給:10ANTS 渋谷プロダクション

©YUDAI UENISHI 

 

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