制作年・国 | 2021年 日本 |
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上映時間 | 2時間5分 |
原作 | 原田マハ「キネマの神様」(文春文庫刊) |
監督 | 監督・脚本:山田洋次 共同脚本:朝原雄三 |
出演 | 沢田研二 菅田将暉 永野芽郁 野田洋次郎/北川景子 寺島しのぶ 小林稔侍 宮本信子 |
公開日、上映劇場 | 2021年8月6日(金)~全国ロードショー |
映画のある人生に感謝!
誰でも、どんな人生であっても、最後に輝ける世界がある
ゴタゴタとした撮影所と、少々ガサツな若い映画人たち、時と場所は違っても若い頃、同じような空気を味わった者にとっては懐かしい映画だ。新米記者時代、大阪には先輩記者がいて、当方はもっぱら「京都撮影所担当」を命じられた。これが幸いだった。なにしろ、俳優に直接話を聞けるのだから。
京福電鉄駅下車、左へ行けば「座頭市」テレビ収録中の勝新太郎がいる大映京都撮影所、右には実録シリーズなどの深作(欣二)組の東映京都撮影所。今では「太秦映画村」として観光名所になっているそうだ。もうひとつ、少し離れたところに松竹撮影所もあって、日本のハリウッドと呼ばれるのも当然だった。当時は、撮影所にも、宣伝部があって、映画記者にはネタはゴロゴロ転がっていた。なにしろあの勝新が現場で声をかけてくれるのだから幸せな時代だった。
そんなちょっと昔の時代を背景にした『キネマの神様』は松竹の蒲田撮影所の100周年記念映画。60年間、89本もの作品を積み重ねてきた山田洋次監督の映画への思いにあふれた作品でもある。人気小説家・山田マハが自分の家族や経験を基に書き上げた、という。映画への思い入れたっぷりの原作者が、キャリアの長い名監督とコンビを組んで出来上がった“結晶”というにふさわしい映画だろう。
こんな人たちは撮影所周辺に確かにいた。無類のギャンブル好きゴウ(沢田研二)は、妻の淑子(宮本信子)、娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されたダメ親父だが、そんな彼がたったひとつだけ愛してやまないものがあった。それが「映画」。行きつけの名画座の館主、テラシン(小林稔侍)とゴウはかつて同じ撮影所で働く仲間だった。若きゴウ(菅田将暉)は助監督として、映画評論家もしくは映画館主を目指していた映写技師のテラシン(野田洋次郎)は、食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)や女優の桂園子(北川景子)らと共に青春を謳歌していた。ゴウとテラシンはそれぞれに淑子に想いを寄せていた…。
年を重ねて、妻にも娘にも愛想をつかされたゴウだが、彼を救ったのは孫の勇太(前田旺史郎)だった。勇太は古い脚本「キネマの神様」を取り上げ、面白さに感動して脚本賞に応募するよう、ゴウに提案する。ゴウの初監督作「キネマの神様」…最初は半信半疑だったゴウも再び自分の作品に向き合う中で、いつしか忘れかけていた夢と青春、何よりも情熱を取り戻していく…。
撮影所にはネタも夢も転がっている。卑近な自身の例でいえば、当時まだ若かったチバちゃん(千葉真一)がつかつかと近寄ってきて「今度”ヒニン”の映画やるよ」とこそっと打ち明けてくれた。当時、東映のオハコだったお色気映画か、と聞き流したら、調べてみたら作品は巨匠・吉村公三郎監督の大作・問題作「襤褸(らんる)の旗」(昭和49年公開)チバちゃんは出てなかったけど、確かに大作だった。
『キネマの神様』は苦難の末に生まれた作品だった。2020年2月22日に撮影前の本読みに、主演の志村けんさんが参加しながら新型コロナ感染で倒れ、長期中断の末、ようやく完成した。見る前から”奇跡を信じ続けた男の物語”らしいと思う。
松竹で言えば映画にたびたび登場する小津安二郎監督の名作「東京物語」へのオマージュにあふれている。映画を愛する男はなかなか理解されないに違いない。だが、夢見る男には時に”ちょっとした奇跡”も起きる。この映画のラストに用意されている大きな贈り物とは?――いつしか映画のシチュエーションと同じ夢のような時を過ごすことになる。そこに映画ならではの”奇跡”があるのだろう。
(安永 五郎)
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配給:松竹
(c) 2021「キネマの神様」製作委員会