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『スレイト』

 
       

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作品データ
原題 Slate
制作年・国 2020年 韓国
上映時間 1時間40分
監督 監督・脚本:チョ・バルン
出演 アン・ジへ イ・ミンジ パク・テサン
公開日、上映劇場 2021年6月25日(金)~シネマート新宿、シネマート心斎橋、7月2日(金)~京都みなみ会館、7月10日(土)~神戸アートビレッジセンター、他全国順次公開

 

~キルビル×カメ止め=観客参加型パラレルワールド!?~

 

2020年東京国際映画祭で上映されたこの作品、チョ・バルン監督によるオリジナル脚本なのだが、漂うB級感と本格的な殺陣とのギャップが鮮やかで誰もが思い浮かべるパロディのオンパレードにはニヤニヤが止まらない。


slate-500-1.jpgヨニ(アン・ジヘ)は孤児院で育った女優の卵。大部屋俳優のまま志半ばで逝った父の雪辱を晴らすため主役(主人公)にこだわり、アクション女優デビューを夢見て腕を磨いてきた。そんななか、しぶしぶ引き受けたスタントの撮影現場で何故か異次元への扉を開けてしまう。そこは古代なのか近未来なのか時空の歪みが生んだ世界。そこで救世主に間違われたヨニはアクションで鍛えた腕力で急場をしのぎながら図らずも自分自身の人生と向き合うことになる。


「キル・ビル」にはチャンバラ映画へのオマージュ他ありとあらゆるタランティーノの映画愛が込められて素人には解き切れないなぞなぞのようであり、リアルすぎる血しぶきに思わず目を覆うこともしばしばだったが、それに比べるとこちらはだいぶ観やすい。チョ・バルン監督はイギリスで映画製作を学んだそうだが、タランティーノのほか三池崇にも強く影響を受けたという。たしかに色彩のコントラストの妖しい美しさが目を引く。また、迫真の殺陣はアン・ジヘ本人によるもの。ギリギリまで寄りで押さえたアクションシーンはなんとハイテク機材を揃えられなかった低予算製作の賜物だというから驚きだ。また「BODYGUARD」のパク・テサンが独特の存在感を放つ。


slate-500-3.jpg荒唐無稽なんだけど何故かリアリティを感じてしまう。みんな一度はこんな夢を見たことがあるんじゃないだろうか。登場人物は身近な人で、ふだんは善人なのに夢の中では悪党だったり、忘れていた記憶の底から意外な人物が現れたり。夢から覚めてみると感覚だけが残っている。この映画なら、きっと筋肉痛になることだろう。そして、目の前に広がるのは普段と同じ日常なのだが、違って見える不思議さを味わうことになる。


今も昔もパラレルワールドは物語の大きな舞台装置。テレビでも本編と並行してもう一つのドラマが配信されたりしている。ふたたびパラレルワールドが見直されているのは、根底に元の世界の価値を再評価したい気持ちがあるからかもしれない。この映画も導入はユーチューバーが出てきてイマ風だが、しっかりとした土台があって”色々あるけど今いる場所でがんばろう”と思わせてくれる。エンドロールを観ているとなんだか自分もスタッフの一人になったような気分にさせてくれるから観客参加型とも言えるかも。


slate-500-4.jpg舞台や劇場が遠く感じられる今、有料チャンネルの登録者数は飛躍的に伸び劇場と同時公開されるケースも出てきている。しかし、これが劇場離れを加速させるとは限らない。今や音楽も芸術も瞬時に世界を駆け巡っている。有名無名に限らずリアルタイムでシェアできる世の中なのだ。文化交流こそがボーダーレスの第一歩。無名のスタッフがそれこそ低予算で作り上げ劇場公開さえ白紙だった”カメラを止めるな”が口コミで広がってゆきインスパイアされたクリエイターが出てくることこそ、その証左に他ならない。


今では見かけなくなった二番館だがシネコンでも名作上映の枠を設けているところもあるし、関西ではシネヌーヴォの特集上映が有名。シネピピアなど新作上映と並行して観たい作品のリクエストを受け付けているところもある。またドリパスはリクエストが一定数に達すれば上映されるという完全投票形式の劇場。民間にできることはまだまだあるのだ。”スレイト”とは撮影のカットをかけるときの、あのカチンコのこと。まさにこの映画をきっかけに私のなかでもカチンコが鳴りシンプルな思いが湧いてきた。映画ってやっぱり面白い!

 

(山口 順子)

公式サイト:https://slate-movie.com

公式ツイッター:https://twitter.com/slatemovie2021

配給:ライツキューブ

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