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シネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網』(いわしうりこいのひきあみ)

 
       

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作品データ
制作年・国 2021年 日本 (平成 21 年 1 月歌舞伎座公演)
上映時間 1時間21分
原作 三島由紀夫
監督 演出・振付:藤間勘祖
出演 中村勘三郎、坂東玉三郎 松本幸四郎、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村東蔵
公開日、上映劇場 2021年6月4日(金)~東劇・新宿ピカデリーほか、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国54館にて公開!

 

絶世の美女・蛍火(玉三郎)に恋焦がれる鰯売りの声の懐かしさよ

今は亡き、勘三郎の愛嬌ある芝居こそ恋しい

 

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シネマ歌舞伎『野田版 鼠小僧』(2005)を初めて観た時の衝撃は今でも忘れられない。歌舞伎を観てあれほど爆笑したのは初めてだった。主演はこの年に第十八代目中村勘三郎を襲名したばかりの中村勘九郎。彼を始め、第十代目坂東三津五郎や中村扇雀に中村座の面々など、普段とは全く違うギャップが可笑しくて堪らなかった。劇場での観劇と違って、役者の表情をはっきりと見ることができ、江戸の大屋根を俯瞰で捉えた一幕では追いつ追われつの大捕物が大迫力で楽しめたのだ。


勘三郎は、古典歌舞伎のみならずコクーン歌舞伎や平成中村座の興行など、国内外を問わず積極的に巡業し、新たな歌舞伎ファンの拡大に貢献した。ところが、2012年の12月、57歳という若さで世を去ってしまう。劇場へ行けない地方の人や外国の人々にも歌舞伎を楽しんでもらいたいと始められたシネマ歌舞伎は、最も勘三郎の意志を継いでいるのかも知れない。


iwashiuri-240-1.jpgそんな勘三郎が、2009年1月、《歌舞伎座さよなら公演》で坂東玉三郎との顔合わせで和やかな笑いで劇場を沸かせた名舞台『鰯賣戀曳網』が12年の時を経てシネマ歌舞伎でよみがえる。愛嬌溢れる鰯売りの猿源氏(さるげんじ)を演じた中村勘三郎に、謎めいた優雅さを湛えた高級遊女・傾城蛍火(けいせいほたるび)を演じた坂東玉三郎。その対面のシーンにご注目!今は亡き勘三郎が玉三郎との共演が嬉しくて堪んない!とばかりに童子のようなキュートさで笑いを誘う感嘆爆笑の舞台である。


原作は三島由紀夫。彼が生涯に残した6作品の「三島歌舞伎」の中でも、おとぎ話のようなハッピーエンドに終わるという歌舞伎では珍しい物語。坂東玉三郎による解説付きで、三島由紀夫との関係や物語の成り立ちに勘三郎との共演についてなど興味深い内容ばかり。二度と観られない至福の舞台を収めた大変貴重な作品でもある。恋焦がれる遊女会いたさに身分を偽って揚屋へ繰り出し、まさかの展開にびっくり仰天!

リラックスして、和やかなひとときをお楽しみ頂けることと存じます。
 


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【あらすじ】

京の都、五条大橋で博労の六郎左衛門(松本幸四郎)は海老名なあみだぶつ(坂東彌十郎)に呼び止められ、海老名の息子である鰯売りの猿源氏(中村勘三郎)の近況を尋ねられるが、返答に困ってその場を慌てて立ち去ってしまう。次に現れたのは猿源氏本人。なにやら元気なく上の空。実は、ここ五條橋で見かけた傾城蛍火(坂東玉三郎)に一目惚れして以来恋の病にかかってしまい、鰯売りの声にも力が入らないという。


iwashiuri-500-2.jpgそこで海老名は息子のために一計を案じる。猿源氏を近々上洛予定の人気大名に仕立て、六郎左衛門を家老として従えさせ、蛍火のいる揚屋へ向かうことにしたのだ。恋焦がれる蛍火を目の前にした猿源氏は天にも昇る思いで舞い上がってしまい、ついお酒を飲み過ぎて蛍火の膝の上で寝入ってしまう。そして、寝言で「伊勢国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい」と自慢の売り声を上げてしまう。それを聴いた蛍火は急に真剣な面持ちで猿源氏の正体を問い詰めると…。


実は、蛍火は丹鶴城のお姫様だったが、鰯売の美声に惹かれて城外へ出たところを良からぬ男たちに遊郭へ売られてしまったというのだ。何という運命だろう。だが、こうしてお互い惹かれ合った者同士として会えたのだ。

めでたし、めでたし!


(河田 真喜子)

公式HP:shochiku.co.jp/cinemakabuki/

公式ツイッター:@cinemakabuki

製作・配給:松竹

©松竹

 
 

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