原題 | Akita & Palma |
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制作年・国 | 2020年 日本・ロシア合作 |
上映時間 | 2時間 |
監督 | 監督:アレクサンドル・ドモガロフJr. 脚本:アレクサンドル・ドモガロフJr./村上かのん プロデューサー:益田祐美子 |
出演 | 渡辺裕之 藤田朋子 アナスタシア 壇蜜 高松潤 山本修夢 早咲 阿部純子(友情出演) 堂珍嘉邦(友情出演) アリーナ・ザギトワ(友情出演) アレクサンドル・ドモガロフ レオニド・バーソフ ヴィクトル・ドブロヌラヴォフ |
公開日、上映劇場 | 2021年5月28日(金)~なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき 他全国ロードショー |
~時代と国境を越えて結ばれる絆と成長の物語~
忠犬ハチ公と言えば渋谷駅前のシンボルとして有名だが、2009年リチャード・ギア主演「HACHI 約束の犬」公開以来、外国人観光客の人気スポットにもなるなどその知名度は海外にも轟いている。ここでハチの物語をざっとおさらいしておくと・・・大正時代、東京帝国大学の上野教授の愛犬だったハチは朝晩、教授の見送りをしていた。だが、ある日教授が急死してしまう。そんなこととはつゆ知らず来る日も来る日もハチは渋谷駅で教授を待ち続けた。その姿が評判になりやがて銅像が建てられる。そして、他家へ引き取られた後もハチは上野家を忘れることなく生涯、渋谷駅へ通い続けたという。
そしてこの春、ロシア版忠犬ハチ公とも言うべき物語が届いた。監督はアレクサンドル・ドモガロフJr.。この物語の案内役を担った名優アレクサンドル・ドモガロフは実父だ。2019年の「ソローキンの見た桜」に続く日露共同制作第二弾として秋田犬の里・大館市でも撮影が行われ、日本からは渡辺裕之ほか前作のヒロイン阿部純子も撮影に参加した。プーチン大統領を筆頭にロシアでの秋田犬人気はよく知られるところ。平昌オリンピックでの活躍が記憶に新しいメダリストのあの人も作品に花を添えた。
ハチは言わずと知れた秋田犬であるが、一方のパルマはシェパード。舞台はモスクワオリンピックを3年後に控えた1977年、モスクワの空港。ある男が愛犬を連れて搭乗口で揉めていた。飼い犬が検疫を通過できず搭乗を拒否されたのだ。業を煮やした男は、あろうことか滑走路に犬を放して一人機内に乗り込んでしまう。取り残されたパルマが飼い主を一途に待ち続けるなか、一人の少年コーリャ(レオニド・バーソフ)と出会う。彼もまた、母親と死に別れパイロットの父(ヴィクトル・ドブロヌラヴォフ)になじめず孤独に苛まれていたのだ。
さて、中国でも今年「忠犬八公」(フォン・シャオガン主演)としてリメイクが決まっているハチの物語。なぜ今これほどまでに注目されるのだろうか。同じモチーフで相次いで作品が製作されるのは珍しいことではないし動物映画はいつの時代も愛されるが、動物が持つ愛らしさ、癒しだけでなく、そこにはさらに大きな希望が込められているのではないだろうか。現代は人と人とのつながり方が難しくなった。加えて昨今社会には先の見えない不安が立ち込めている。そんな、ある意味窮屈な時代だからこそ、言葉を越えた絆、魂の交流とも言うべきものに誰もが強く惹かれるのではないだろうか。
ともあれコーリャ少年の愛くるしさとパルマのひたむきさの前にはそんな理屈もどうでもよくなる。飼い主の飛び立ったIL-18機の着陸時刻が近づくと猛然と走り出し、タラップを降りてくる乗客の中に飼い主の姿を探すパルマ。機体に追いすがらんばかり並走する姿には、危ない!と声が漏れそうになると同時に映像のもつ力に圧倒される。機体の下から車輪越しに走る犬の姿を捉えたショットを見たのはこれが初めてだ。夕景に浮かび上がる少年と犬のシルエット、空港の外れに建つ修理小屋など、空港の敷地内とは思えないロマンがそこかしこに見られる。
やがてコーリャとパルマの間に生まれるシンパシー。とくにパルマのコーリャを見上げる目にやられた。黒目がちの犬の目に白い縁取りが現れると何ともユーモラスな表情になり、賢く一本気だったパルマの弱気や優しさがあふれ出す。もの言わぬ存在に対してこそ、なおさら嘘はつけない。頑なだった人々の心も次第にほどけてゆく。パルマを取り巻く人間同士のドラマもしっかり描かれており、犬好きの方はもちろん、ふだん動物映画は観ないという方にも見応えのある内容になっている。コーリャとパルマの奮闘ぶりをぜひスクリーンで確かめてほしい。
(山口 順子)
公式サイト: https://akita-movie.com/
配給:東京テアトル/平成プロジェクト
©2021パルマと秋田犬製作委員会