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『ジェントルメン』

 
       

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作品データ
原題 THE GENTLEMEN 
制作年・国 2020年 イギリス・アメリカ合作
上映時間 1時間53分 PG12
監督 監督・脚本・製作:ガイ・リッチー  撮影監督:アラン・スチュワート 音楽:クリストファー・ベンステッド
出演 マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、ジェレミー・ストロング、エディ・マーサン、コリン・ファレル、ヒュー・グラント
公開日、上映劇場 2021年5月7日(金)~TOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、他全国ロードショー


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~ややこしい輩が躍動する痛快犯罪サスペンス~

 

ビートルズの影響でイギリスという国にいたく興味を覚えており、これまで幾度となくかの国を訪れました。当然、イギリス映画が大好きで、イギリス人監督に強い関心を寄せています。そう言えば、大学の卒論も『(イギリスの)怒れる若者たちの映画』でした。


かつては『第三の男』のキャロル・リード、『アラビアのロレンス』のデヴィッド・リーン、『マーラー』のケン・ラッセル、『ガンジー』のリチャード・アッテンボロー……とイギリス映画界には錚々たる監督がいました。現役の中堅監督を見ても、マイケル・ウィンターボトム、スティーヴン・ダルトリー、クリストファー・ノーラン、ダニー・ボイル、ケネス・ブラナー……と人材が豊富。


サブ1.jpgそのなかでぼくが特に注目しているのがガイ・リッチーです。何たって、デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)で吹っ飛ばされてしまったから。不良少年とギャング団の抗争を扱った犯罪ドラマ。強烈なスピード感と躍動感、先が読めない奇抜なストーリー展開、そしてあっと驚かせるカット割り。「イギリス映画界に凄い男が登場した~!」と心底、思いました。


その処女作の世界観を存分に活かし、ドラマ的にも演出的にも進化させたのが本作『ジェントルメン』です。ディズニーで実写版『アラジン』(2019年)をヒットさせたけれど、ガイ・リッチーはやっぱり犯罪映画が似合う監督さんです。脂が乗り切っている52歳。「過去の作品へのトリビュート」と言っているように、全編、映像から物凄いエネルギーが感じられました。


サブ3.jpgオスカー俳優のマシュー・マコノヒー扮する「ジェントルマン」がロンドンのとあるパブに入り、ビールを飲もうとするや、いきなり銃声が炸裂!! 「いったい、な、な、なんやねん!?」と度肝を抜かせる衝撃的な冒頭シーン。


この男、イギリス各地に秘密の大麻農園を保有し、巨万の富を築いたミッキーという裏社会に生きるアメリカ人実業家。独特な不気味さをかもし出しています。マコノヒーに風格が出てきましたね。デビュー当時、ポール・ニューマンによく似ているなぁとくらいしか思っていなかったのに、今や堂々たる演技派俳優です。


そのミッキーがそろそろ引退しようと、同じ穴の狢(むじな)ともいえるユダヤ人の大富豪(ジェレミー・ストロング)に全事業の売却をもちかけます。利権総額が4億ポンド(約500億円)! 両者のあいだでもめ事が起きるのかと思いきや、そんな単純な話ではありません。


サブ5.jpgヒュー・グラント扮する私立探偵フレッチャーの登場で話がすこぶる面白くなってきます。この男、ミッキーの全貌(犯罪記録)を調べ上げ、何と映画脚本まで作成しているんです。そしてミッキーの参謀役レイ(チャーリー・ハナル)の自宅を訪れ、ボスの悪行を公にしない代わりに2000万ポンド(約25億円)を要求します。要は「ゆすり」ですわ。


グラントの胡散臭さと嫌らしさがたまりません! かつては美少年やイケメン英国紳士役で一世を風靡していましたが、還暦を迎えた今、こんな役どころが似合うなんて、なかなかええ年齢(とし)の取り方をしてはりますわ。


そのフレッチャーが極上のウイスキー(スコッチ・シングルモルトのグレンファークラス40年!)を舐めながら、レイに報告するかたちでドラマチックな物語が暴露されていきます。つまり狂言回しです。


サブ2.jpgミッキーとユダヤ人の富豪だけでなく、ガレージを経営するミッキーの美しい妻(ミシェル・ドッカリー)、品性のないゴシップ紙の編集長(エディ・マーサン)、血気盛んなチャイニーズ・マフィアの若頭(ヘンリー・ゴールディング)、独特な存在感を見せるボクシング・ジムのコーチ(コリン・ファレル)らが次々に登場してきます。さらにはロシアン・マフィアも……。


おいおい、どこまで人物を出したら気が済むねん。それも、そろいもそろって、みな、ひと癖もふた癖もあるややこしい輩ばかり。こうなると、よっぽど構成をしっかりしないと、ドラマの収拾がつかなくなってしまうのに、すべての人物が有機的に結びつき、ちゃんと群像ドラマ風になっていました。もう脱帽です。


話があっちへ行ったり、こっちへ行ったりして、正直、しばらくの間、ストーリーと人間関係が把握しづらかったのです。しかし徐々に、それも知らず知らずのうちにグイグイのめり込まされてしまった。こんな吸引力のある複雑な物語をよくぞ思いついたものです。脚本はこれまでと同様、監督が書きはりました。


サブ4.jpgどこか楽天的なアメリカ人と陰鬱なイギリス人。「両国人の違いを描きたかった」と監督が言っているように、同じワルでも、キャラクターが異なるところが興味深い。その意味で、マコノヒーを主演に起用したのは大きい。


それに上流階級を徹底的に揶揄しているのが何とも痛快。貧乏学生だったミッキーが留学先のオックスフォード大学のお坊ちゃまを大麻で手玉に取ったり、貴族の敷地を大麻農園に活用したりと。そんな反エスタブリッシュメント+アナーキー的な要素が作品にスパイスを与えています。


波打つほどのダイナミックな映像、軽快なテンポ、心地よいメリハリ、切れ味抜群の演出。そこに実力派俳優のアクションがかぶさるのだから、ウキウキしないはずがありませんよね。〈ガイ・リッチー節〉に酔わされる超ご機嫌なエンタメ映画でした。ちょっと褒めすぎたかな……(笑)。

 

武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト: https://www.gentlemen-movie.jp/

配給:キノフィルムズ

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