原題 | MINARI |
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制作年・国 | 2020年 アメリカ |
上映時間 | 1時間56分 |
監督 | 監督・脚本:リー・アイザック・チョン |
出演 | スティーヴン・ユアン、ハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン |
公開日、上映劇場 | 2021年3月19日(金)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、西宮OS)、京都シネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー |
受賞歴 | 《第93回(2021年)アカデミー賞®》助演女優賞受賞(ユン・ヨジョン)、《ゴールデングローブ賞2021》外国語映画賞受賞、放送映画批評家協会賞(子役賞・外国語映画賞) |
~移民が築いたアメリカの大地で粘り強く生きる尊さ~
アジア人へのヘイトクライムが大問題となっているアメリカで、『ミナリ』という映画が高い評価を受けている。1980年頃のレーガン政権下、韓国人移民の家族が子供の将来のために懸命に生きる姿を描いた感動作である。『レディバード』や『ミッドサマー』『フェアウェル』等の異色の話題作を次々輩出する《スタジオA24》と、『それでも夜は明ける』や『ムーンライト』等のアカデミー賞®受賞作で映画への評価基準を大きく変えた《PLANB》が最強のタッグを組んだ話題作。そこには、アメリカの大地に根付こうと粘り強く生きた移民家族の強い絆と深い愛情が謳われ、さらに、移民の国・アメリカならではのアイデンティティについて、肌の色ではなく、アメリカ人として生きる姿勢を示しているように思う。
「ミナリとは韓国語で香味野菜のセリ(芹)のことで、たくましく大地に根を張り、2度目の旬が最も美味しいと言われていることから、子供世代のために親世代が懸命に生きるという意味が込められているらしい」(プレス引用)。本作は、リー・アイザック・チョン監督の両親をモデルに描かれているという。この物語の父親ジェイコブ(スティーヴン・ユアン)は、二人の子供たちがアメリカ人としてしっかり生きていくために、野菜栽培で成功する父親の姿を見せようと、アーカンソーの山の中の荒れ地を買い、韓国人向けの野菜作りに奮闘する。だが、思うようには事は進まない……。
ジェイコブはひよこの雌雄識別のプロで、昼間は妻のモニカ(ハン・イェリ)と共に識別所で働きながら畑仕事をこなしていた。妻にしてみれば、心臓に病を抱える息子デビッド(アラン・キム)のためにももっと便利な街に住みたい。こんな山の中の貧しいコンテナハウス暮らしはゴメンだ、と不安のあまりケンカが絶えない。そこで、韓国から妻の母親を呼び寄せ、子供たちの面倒を看てもらおうとしたのだが、このおばあちゃん(ユン・ヨジョン)がまたクセ者で……。
おばあちゃんは、お料理は苦手で汚い言葉使いをするは、得意なことは「花札」とくる!? でも、愛情だけは人一倍ある!おばあちゃんのことを気持ち悪がっていたデビッドも、おばあちゃんの大らかな優しさに包まれ、自然の中で走り回れる程元気になっていく。また、一家は教会に集う人々にも助けられる。家具や衣類などを寄付してもらったり、茶話会でも優しく接してくれたりと。最初は物珍しい目で見られることもあったが、子供たちにも友達ができて、現代のようなあからさまな差別はなかったように感じる。
アメリカにおけるアジア人の人口は全体の5%で、年々その数は増えているという。チョン監督は、韓国からの移民である親世代が、ゼロから築いたアメリカでの土台の尊さと、どんな困難にもめげず、何度でも立ち直って、粘り強く生きる逞しさを、現代人に伝えたかったのではなかろうか。これは韓国人だけに向けられたものではない。混迷を深めるアメリカという国で生き抜くためには、今こそ多様性を認め合う寛大さが必要なのでは、と問い掛けているように思う。
私も丁度同じ頃、チケット代が一番安かった大韓航空機を利用して渡米した経験がある。その時同乗していた韓国人は皆、“引越か?”と思えるような大きな荷物をいくつも抱えた家族連ればかりだった。当時は、年間3万人の韓国人がアメリカに移住していたというから納得の光景だ。ロサンジェルス空港の入国審査場で、その長蛇の列に呆然として並んでいたら、「日本人はこっち!」と私だけ別の審査場へ案内された。そして、意外にもすんなりと通過。どうして私が日本人と識別できたのか?その時は係官のプロの目に感心していたが、今は日本人といえども見境なく差別され、攻撃されるというから恐ろしい。
アメリカでは、トランプ政権下に人種間の分断が顕著になり、自由民権運動が高まった1960年代に逆行するような白人至上主義が台頭してきている。黒人への差別意識は暴力的になり、さらに新型コロナウィルスが中国由来ということで、今度はアジア人に対する差別が始まっている。これにはBLM(Black Lives Matter)アフリカ系人種差別抗議運動の中心となっていた黒人までもがアジア人を攻撃しているというから、アジア人を怒りのはけ口にしているように思えてしまう。コロナ禍後の世界が、偏見と分断を乗り越えて平穏な日々を取り戻せますよう、心から願わずにいられない。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/minari/
配給:ギャガ
Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24