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『ある人質 生還までの398日』

 
       

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作品データ
原題 Ser du manen, Daniel  
制作年・国 2019年 デンマーク・スウェーデン・ノルウェー合作
上映時間 2時間18分
原作 プク・ダムスゴー(「ISの人質 13か月の拘束、そして生還」光文社新書刊)
監督 ニールス・アルデン・オプレヴ
出演 エスベン・スメド、トビー・ケッベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ、クリスティアン・ギュレルプ・コッホ
公開日、上映劇場 2021年2月19日(金)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー

 

ISに誘拐された青年が見た地獄と、

生還を諦めなかった家族の執念の物語

 

内戦激化のシリアへ不用意に足を踏み入れたばかりに地獄を見ることになるデンマークの青年とその家族。平凡な人生と引き換えにして若者が得たものとは? ――監禁、拷問、劣悪な状況下で死の恐怖と闘う人間の尊厳と希望。ノンフィクションだからこそ伝わる、ISに誘拐された青年の恐怖と、彼の生還を決して諦めなかった家族の苦労を、追体験するようなリアルな映像で圧倒する感動作である。


aruhitojichi-500-1.jpgデンマークの青年ダニエル(エスペン・スメド)は、体操選手として期待されていたが怪我のためリタイア。平凡な人生設計を変えたいと思って、ある写真家のアシスタントになる。戦地の人々の様子を伝える写真家として喜びを感じ始めた矢先、無謀にも一人でシリアへ出向いてしまう。そして彼の純粋な思いは一瞬で打ち消されてしまう。ISによる資金調達のための外国人誘拐ビジネスが横行していたにもかかわらず、ダニエルはその危機管理に欠けていたのだ


aruhitojichi-500-3.jpg本作は、IS組織内部のことやデンマークの政治的背景などは省略され、囚われの身となったダニエルの過酷な状況を彼の目線で描写。それに並行して、一般人であるダニエルの家族が無力感を抱えながらも身代金調達に奔走する姿が描かれていく。特に、常日頃から甘い考えのダニエルに厳しく当たっていた姉のアニタ(ソフィー・トルプ)の“決して諦めない”という奮闘ぶりには勇気付けられる。そして、ISとの交渉役にあたったアートゥア(アナス・W・ベアテルセン)の存在にも目を見張るものがあった。


aruhitojichi-500-4.jpg本作は、2013年5月から2014年6月までISに誘拐されていた写真家の実話を基にした衝撃のノンフィクション本を基に映画化されたものである。ダニエルが、隙を突いて逃亡しようとしたり、拷問に耐えかねて自殺しようとしたり、腸チフスに罹って瀕死の状態に陥ったり。移送先で出会ったフランス人やスペイン人にイタリア人など、さらにアメリカ人のジェームズ・フォーリー(トビー・ケベル)も実在の人物である。特にフォーリーは、過酷な状況下にあっても他者へ優しく手を差し伸べ、健康管理に気を配り、皆が人間の尊厳を失わずに希望を持ち続けられたのも彼のお陰だったのだ。


aruhitojichi-500-5.jpgダニエルが解放された翌年の2015年1月に2人の日本人がISによって殺害された。当時、連合軍を派遣したアメリカやイギリス以外で殺されたのは日本人だけだそうだ。何と、身代金は2億ドル(当時約236億円)!? 前年の秋、安倍首相が中東4か国歴訪時に人道支援費として提示した額と同額だった。とても個人で調達できる金額ではない。他の人質と明暗を分けた救出策にも問題提起しているように思えてならない。人命を軽視した残虐な破壊行為を続けるISのようなテロ組織は未だに存在する。“自己責任”を問う前に、命の重さを今一度感じてほしい。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:https://398-movie.jp/

配給:ハピネット

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