～君の輝きを忘れない。あの恋をもう一度！～

一生のうちで、そう何人もの人を本気で愛せるとは思えないのだが、あなたにもかつて愛した忘れられない人はいるでしょうか？例えそれが苦い経験であっても、後悔だらけの人生であっても、唯一大切にしたい思い出……もし、その人の近況を聞いたり、あるいは偶然に見掛けたりしたらどんな気持ちになるでしょう？きっとかつての情熱が沸き上がり、何かに覚醒したようにその人の面影を追い掛けてしまうのではありませんか？

演劇評論家のクロード（ブルース・ダーン）は妻に先立たれて一人暮らし。浮気性で信用できない夫を持つ娘と孫の心配をしながらも、たまに仕事も続けていた。ある日、かつて愛した女優・リリイ（カロリーヌ・シロル）がアルツハイマーになって高齢者施設に入所するというニュースを目にして動揺する。あのリリイが……43年前、クロードは人気の舞台女優だったリリイと心から愛し合っていたが、彼女には夫がいて、叶わぬ恋は突然に終わってしまっていた。その後、クロードも家庭を持ったのだが、リリイとの恋を忘れたことはなかった。もう一度会いたい。失われた時を取り戻して、再び彼女と愛し合いたい。

そこで、クロードは親友のシェーン（ブライアン・コックス）の協力を得て、“アカデミー賞ばりの演技力”でアルツハイマーのフリをして、まんまとリリイがいるホームに入り込む。彼女が好きだったユリの花で部屋をいっぱいにしたり、また、彼女が好きな音楽を掛けてみたり、昔の二人の写真を見せてみたり、あの手この手でリリイの記憶を呼び覚まそうとするが、どれも不発に終わる。それでも、彼女の傍に居るだけで幸せだった。

ところが、娘のセルマ（シェンナ・ギロリー）やその家族にバレてしまい、施設にも居られなくなってしまう。そこで、最後の手段として、舞台女優のリリイが一番得意としていたシェイクスピア劇『冬物語』の公演を思いつき、孫娘のタニア（セレナ・ケネディ）に協力を依頼する。タニアも積極的に生きられない悩みを抱えていて、気になる男の子がいる演劇部を連れてきてお芝居をすることになったのだが……!?

クロードを演じたブルース・ダーンは現在84歳。西部劇やサスペンスものなど脇役が多かったが、中でも『華麗なるギャツビー』(‘74)ではミア・ファローの夫役で狡猾な男を演じ、悪役の印象が強かった。ところが、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(‘13)では息子との心の絆を無骨ながらも滲ませた感動的な演技で魅了。第66回カンヌ国際映画祭では77歳で主演男優賞を受賞。さらに初のゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞®で主演男優賞にノミネートされた。主演級ではなかったにせよ息の長い俳優人生で、晩年になってこんなラブストーリーの主役を演じられるなんて、彼が如何に映画人たちに愛されているのかが窺い知れる。

さて、本作の華であるリリイを演じたフランス人女優のカロリーヌ・シロルが素晴らしい。過去の記憶が忘却の彼方へと行ってしまっている彼女の表情には、吸い寄せられるような華やかな気品と、かつての大女優というキャラクターのオーラにあふれている。さらにはシロル自身の舞台女優としての貫禄の演技もクライマックスを盛り上げる。彼女の衣装にもご注目頂きたい。明るい花柄のワンピールにビビットな色のカーディガンスタイルが美しく、若い頃のシーンよりシロルが演じるリリイの方が輝いて見えるのは私だけだろうか。

かつてリリイからもらったラブレターの内容やセリフの随所に、演劇、特にシェイクスピア作品の要素が効果的に盛り込まれ、作品に輝きをもたらしている。演劇ファンならずとも、その意味深さやユーモアが楽しめる作品でもある。大人過ぎる年齢のラブストーリーがこんなにも新鮮に見えてしまうのは、“真実の愛だけがもたらす純粋さ”に心打たれるからだと思う。誠意のない恋を繰り返しては虚しさを感じているあなた、逆に過去の思い出だけに浸っているあなた、クロードの情熱から学ぶことも多いのでは？

（河田 真喜子）

公式サイト：https://movies.shochiku.co.jp/43love/

配給：松竹

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