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『野球少女』

 
       

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作品データ
制作年・国 2019年 韓国 
上映時間 105分
監督 ・脚本:チェ・ユンテ
出演 イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギュ
公開日、上映劇場 2021年3月5日(金)〜大阪ステーションシティシネマ、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー
 
 

~野球でガラスの天井を突き破る~

 
 プロ野球といえば典型的な男性社会。日本では高校野球ですら甲子園での高校野球選手権では女子がグラウンドに入ることが禁止され、問題になったケースも記憶に新しいところだ。くしくも今年、阪神タイガースで「阪神タイガース women」が誕生したが、プロの女性硬式野球クラブチームであり、年棒何億という選手もいるプロ野球の世界とはほど遠い。本作は1997年、韓国で女性として初めて高校の野球部に所属し、韓国プロ野球が主催する公式試合で先発登板を果たした伝説の選手、アン・ヒャンミをモデルに、自分の能力を信じてプロ野球に挑む野球少女の闘いを、家族模様にも焦点を当てながら描くヒューマンドラマだ。
 
 
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 130キロの速球を投げる能力を買われ、20年ぶりに高校野球の女子選手となったチェ・スイン(イ・ジュヨン)。天才野球少女と騒がれたのも今は昔、同級生のチームメイトがプロ球団に入部が決まったのを横目に、スインはプロを目指して球団のトライアウトを受けようとするが、書類審査で落とされてしまう。学校では硬式女子野球部を勧められるが、スインが勝負したい場所はそこではなかった。女子というだけで色眼鏡で見られることに苛立ち、何が何でもプロを目指す決意を固めるスインに、スインの母は「諦める勇気も必要」と就職を勧める。そんな中、スインが所属する高校野球部に新しいコーチ、チェが就任した。プロを目指しながらもなれなかったチェは、最初スインに目も留めなかったが、プロを真剣に目指そうとしているスインの姿に触発され、心を動かされていく。
 
 
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 プロは実力の世界と言いながら、女子というだけでからかいの対象になってしまう悔しさすらバネにして、自分の実力を信じ、プロに必要とされる150キロを目指そうとするスイン。父は宅建の資格勉強を長年続け、一家は母の働きに頼っている状態で、母との口論が絶えない中、コーチのチェが提案したのはスピードではなく、打ち取るための球種をマスターすることだった。ただの野球映画ではない、家庭の生活状況の厳しさや、家族それぞれの描写が奥深いのは昨年大反響を呼んだ韓国映画『はちどり』や『82年生まれ、キム・ジヨン』にも通じる。娘の道を閉ざそうとする悪者ではなく、娘にそう言わざるを得ない苦しい状況に追い込まれている母の辛さが滲み出ている。
 
 
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 抜群の実力を持つ野球少女、スインを演じたのは、Netflixで大人気の韓国ドラマ「梨泰院クラス」でトランスジェンダーの料理長役を演じたイ・ジュヨン。大阪アジアン映画祭2019グランプリ作の『なまず』(イ・オクソプ監督)でも主演を果たすなど、インディペンデント映画界で活躍していたイ・ジュヨンが、野球シーンのリアリティだけでなく、強い意思で野球界のガラスの天井を壊そうとチェと共に奮闘する姿や、家族とのやりとり、歌手の夢を持つ同級生との交流をダイナミックさと繊細さを併せ持つ絶妙の塩梅で表現している。そんな韓国の新世代俳優の魅力も、ぜひ味わってほしい。
(江口由美)
 
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