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『あのこは貴族』

 
       

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作品データ
制作年・国 2021年 日本 
上映時間 124分
原作 山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫刊)
監督 ・脚本:岨手由貴子
出演 門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶他
公開日、上映劇場 2021年2月26日(金)~テアトル梅田他全国公開
 
 

~格差社会の物語に終わらせない自己解放の物語~

 
 格差社会の悲哀をエンターテインメントに昇華させ、見事カンヌ国際映画祭パルムドール受賞とアカデミー賞4冠達成を果たした韓国映画『パラサイト 半地下の家族』公開から早1年。同じ東京に暮らしながらも決して交わることがない上流階級のお嬢様、華子と、富山から進学で上京したのに家庭の事情でどんどん道が外れていく美紀の単なる格差社会物語に終わらせないヒューマンドラマが誕生した。「ここは退屈迎えに来て」など映画化作品も多数の人気作家、山内マリコの原作を、『グッド・ストライプス』の岨手由貴子が映画化。女性の生きづらさを丁寧に浮き彫りにしながらも、そこで静かに育まれる尊敬の念や友情を優しく捉える。登場人物たちの背中をそっと押したくなるような、端正な映画だ。
 
 
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 東京生まれで上流階級の箱入り娘、榛原華子(門脇麦)は家族からも結婚を急かされ、華子自身も名門女子校時代の同級生たちが次々結婚する中、焦りを感じていた。お見合いを重ねながら、ようやく容姿端麗な弁護士、青木幸一郎(高良健吾)との結婚が決まる。一方、富山から猛勉強の末、慶應義塾大学に進学した時岡美紀(水原希子)は、家庭の経済状況により夜のバイトをしても学費を補えず、大学を中退してしまう。そんな美紀の東京での数少ない友人が幸一郎だった。
 
 
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 絵に描いたようなお嬢様の華子を巡る家族たちの思惑が垣間見えるオープニングでは、華子の一番上の姉を演じる石橋けい(『本気のしるし 劇場版』)、二番目の姉を演じる篠原ゆき子(『ミセス・ノイズィ』)が上流階級の本音を激白。華子に課せられた “良妻賢母”的生き方や、結婚がマストという古い価値観に、上流階級の息苦しさを感じずにはいられない。表と裏の顔をうまく使い分け、慶應大学時代から自由に生きているように見える青木も、ゆくゆくは親戚の政治家の地盤を継ぐという十字架を背負わされていた。一方、大学を中退してしまった美紀は、故郷の同級生たちが地元で親の仕事を継いだり、結婚していく中、浮いているような気分になってしまう。30歳を前にした未婚女性たちの生きづらさは、上流階級だろうが、そうでなかろうが、本質的には同じなのだ。
 
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 そんな二人に大きな刺激を与えるのが、石橋静河演じる華子の同級生でバイオリニストの逸子だ。周りに流されず、自分の生きる道を見定めて進んでいく。そして幸一郎を巡る、やりようによっては泥沼の戦いになりかねない華子と美紀の関係を、ミスリードすることなく、シスターフッドの関係に導いていく。そう、間に男が入ったからといって、女性同士がいがみ合うことなんてないし、女性の生き方も実は多彩なのだ。刷り込まれた価値観から脱皮するとき、今まで見ていた東京もまた違う景色を見せることだろう。登場人物たちそれぞれが迷いながらも、自分が納得できる生き方を模索する姿に、大きなエールを送りたくなった。
 
(江口 由美)
 
公式サイト⇒:https://anokohakizoku-movie.com/
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

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