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『Swallowスワロウ』

 
       

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作品データ
原題 SWALLOW 
制作年・国 2019 年 アメリカ・フランス 
上映時間 1時間35分 R15+
監督 監督・脚本:カーロ・ミラベラ=デイヴィス 撮影:ケイトリン・アリスメンディ
出演 ヘイリー・ベネット(『ラブソングができるまで』『マグニフィセント・セブン』『ガール・オン・ザ・トレイン』)、オースティン・ストウェル、エリザベス・マーヴェル、デヴィッド・ラッシュ、デニス・オヘア
公開日、上映劇場 2021年1月1日(金)~新宿バルト9、シネクイント、梅田ブルク7、他全国ロードショー

 

理想の結婚のはずだった…

美しい新妻を襲う孤独と焦燥と恐怖

 

ニューヨーク郊外の豪邸。緑豊かなハドソン川を一望するガラス張りのテラスがあるその家は、空中庭園のような異次元の美しさを湛えていた。そんな豪邸をポンと買ってくれる実業家の息子リチャード(オースティン・ストウェル)と結婚したハンター(ヘイリー・ベネット)は、理想的な生活を手に入れたはずだった。ところが、美しい妻が自慢の夫も仕事第一主義の義父母も彼女の意見に耳を傾けることなく、まるでトロフィーワイフのような扱われ方をする。そして、ハンターは次第に孤独を深めていき、危険な異物を飲み込む(スワロウ)という異常行動をとるようになる。


swallow-500.jpg最初、同じようにガラス張りの邸宅(大海原を一望)に住みながらも、妊娠を機に狂暴な夫から逃げた『透明人間』(2020年7月公開)のヒロインの恐怖を想起したが、全く違っていた。待望の妊娠判明後も、誰もハンターの気持ちなど意に介さず、食事中でもスマホが手放せない夫をはじめ、「金を払っているのは私だ」とすべてを支配しようとする舅に、「できるフリをしなさい」と自己啓発書を勧めてはヘアスタイルにまで口を出す姑。ないがしろにされる辛さや孤独が美しいハンターの顔を曇らせる…「私って一体、何?」明るく美しい眺望とは対照的に、虚しさがハンターの心の闇を呼び覚ましていく。


自分たちが認める価値にしか興味を示さない夫とその両親。ハンターを追い詰めようと意図的にしていることではなく、彼らにとってはそれが普通のこと。「異食症」と診断されてから雇われたシリア出身の介護士の存在もまた意味深い。戦禍を逃れて渡米した彼は、「銃弾を避けるのに必死で心の病にかかる暇はない」と最初は彼女の病気を理解できない様子だったが、最後の方では「彼女にとっての戦場」と察知したのか、彼がとった行動には感動する。


swallow-pos.jpgさらに、複雑な自分の出自や両親との関係性も簡潔な描写で的確に感知させる。ハンターを中心とした人物の配置や役割、さらには巧みな構図と鮮烈な映像が孤独なハンターを浮き彫りにして、実に秀逸。徐々に明らかにされる過去と対峙しながらも、自分自身を取り戻していくハンター。彼女の最初に映る眼と最後に映る眼の違いがすべてを物語っている。本作は、スリラーを超越した後味爽快なヒューマンドラマとして観て欲しい。


ハンターを演じたヘイリー・ベネットは繊細な心の機微を眼で語り、まるで一人芝居のような圧巻の演技で観る者を飲み込んで(スワロウして)いく。本作では主演だけでなく、現在のパートナーであるジョー・ライト監督(『つぐない』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)と共に製作総指揮を務めている。彼女のエキセントリックな眼差しは時に危うさを感じさせるが、自由な意志を持った生き方にこそ生命力が宿ることを雄弁に物語っているようだ。

 

(河田 真喜子)

公式サイト:http://klockworx-v.com/swallow/

配給:クロックワークス

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