原題 | 気球 Balloon |
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制作年・国 | 2019年 中国 |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | 監督・脚本:ペマ・ツェテン |
出演 | ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツオ |
公開日、上映劇場 | 2021年1月29日(金)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、2月19日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~牧歌的な佇まいの中に込められた鋭いメッセージ~
のどかで穏やかな作風なのに、母国が抱える大問題にまで踏み込んだ壮大なテーマが込められて、グサリときた。監督・脚本はチベット生まれのペマ・ツェテン。名高い小説家でもある。監督が道でふと目にした風船から膨らませた物語は、長らく虐げられてきた小国チベットの苦悩の叫びが聞こてきそうなものだった。
子供が遊んでいたおもちゃである風船は、大人の必需品=避妊具だった。大人が隠していたものだが、探し出すのは子供の得意技、大人の事情など知ったこっちゃない。父親は「色の着いた風船を買ってやる」と約束する。子供たちが避妊具を風船にしたせいで?妊娠してしまう母親のドルカルは、既に3人の子供がいるので「避妊手術」を申し出る。だが、長男の背中のほくろが「亡き祖母」の生まれ変わりなら、ドルカルのお腹にいる子供は亡くなったばかりの祖父の生まれ変わりだと高僧が予言したものだから、さあ大変。
ドルカルは生活が苦しいから出産を諦めるのか。女性医師は『堕ろしなさい、今度産んだら罰金よ』と警告し、夫は「産んでくれたら酒も煙草もやめる」と言い出す。子供たちも「じいちゃんの魂に帰ってきてほしいから生んで」と頼み込む。家族の貧困と女性たちの伝統的な出産への反逆……民族的な苦悩の選択がまず先に来てしまう。
じいちゃんが亡くなり、火葬場へと向かうのを二人の子供がじっと見送ると、高僧が「家に帰ったら僧侶を招きお教を唱えなさい、そうすれば家族の中に転生する」と子供たちに教える。日本も同じような事情がありそうだが、そこには“貧困”という問題が横たわっていることが大違いだろう。家族を巻き込んで、賛成、反対が分かれるのだが、それが中国では国家的な問題に繋がってしまうのだ。
それは「チベットはもともと中国だった」という高圧的な中国の姿勢によるところが大きい。日本では中国の海洋進出が大問題になっているが、中国国内ではチベットやウイグルの民族問題が深刻だという。原語や人口にまで目を光らせ、教育や人口調整は偏重され軋轢を生んでいるという事情があるとすれば、『羊飼いと風船』は、素朴なたたずまいに鋭いメッセージを込めたプロパガンダになり得ている。
ツェテン監督は「現実と魂の関係性を、探究しています。魂は生き続けると信じています」と語っている。
(安永 五郎)
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/
配給:ビターズ・エンド
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