原題 | Happy Old Year |
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制作年・国 | 2019年 タイ |
上映時間 | 1時間53分 |
監督 | ナワポン・タムロンラタナリット |
出演 | チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン |
公開日、上映劇場 | 2020年12月11日(金)~シネ・リーブル梅田、京都みなみ会館、シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
受賞歴 | 第15回(2020年)大阪アジアン映画祭 グランプリ受賞 |
前に進むための断捨離。
されど過去の自分に対峙する覚悟が必要
死ぬまでにしたい事、いやしなければいけない事、それは断捨離。今の自分に一番響く言葉だ。この映画の主人公は、年末までの1か月間で実家の断捨離を迫られるのだが、否応なしに過去と対峙することになる。そして、過去の自分の身勝手さに傷付いたり、思わぬ本音を知っては消えた淡い期待に悲しんだりと、どうしようもない感情に押し潰されそうになる。断捨離のコツを章立てにしながら、ままならない人生に向き合う勇気をくれる稀有な作品である。
本作は今年の《第15回大阪アジアン映画祭》でグランプリを受賞。斬新な切り口でスマッシュヒットを放った『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(‘17)を製作したスタジオGDH559が、再びチュティモン・ジョンジャルーンスックジンを主演に据え、若者の心の機微を新鮮なタッチで捉えた秀作。監督は国内外で高い評価を得るナワポン・タムロンラタナリット。新世代の旗手としてクールに生きたい主人公を、ぼろぼろの感情に溺れさせて、そこから生まれ変わらせる、という離れ業で心を掴んでいく。
新進気鋭のデザイナーとして注目されているジーン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、留学先のスウェーデンでミニマルなライフスタイルを学び、実家の1階を改修して事業を始めようとしていた。友人のピンクが改修工事を請け負い、年末までの1か月間で片付けをしなければならなくなった。「老人は変化を怖がるが、今は私たちの時代よ」と同居する兄を説得し、断捨離に協力させる。「ゴミ袋(黒)は偉大よ、自分が何を投げ込んだか忘れさせてくれる」と片っ端からゴミ袋に投げ込んでは順調なスタートを切る。だが、簡単に捨てられない物がわんさかと出てきてしまった。
グランドピアノ。音楽教室を開いていた父親が演奏していたものだ。家を出て行ったきり戻ってこない父をずっと待ち続けている母親は、「ピアノは私のものよ!」と頑として手放さない。さらに、ピンクがプレゼントしてくれたCDを捨てたのを彼女に見つかってしまい、気を悪くさせてしまう。簡単に捨てられる物、そうではない物…いま一度振り返り、借りた物は返していくことにする。感謝されることもあれば、むげにされることもある。それでも、手間暇かけて持ち主に返していくと、善行を重ねていくような気になる。そんな中、元カレに借りたままのカメラを返そうとして、思わぬ事態に進展していく。果たして、ジーンの断捨離は年内に終わらせることができるのか?
過去を振り返っては反省し、謝罪し、関係性を修復しようとするが、それは自己満足でしかない。留学と同時に連絡を絶っていた元カレに、「あの時は運命の人とは思えなかったの」と懺悔。運命の人でなければ何も言わずに捨てていいのか?――何とも主人公の身勝手な言い分だが、何となく身に覚えがあるようで、つい共感してしまった。さらに、別居中の父親にピアノの処分について電話して、「もう戻らないからピアノは売れ」と言われ、「父さんは完全に私たちを切り捨てた!」と大泣きする。
“捨てられる悲しみ”を実感していく主人公が次第に変わっていく様子がいい。最初はミニマルなライフスタイルを体現しているようなクールさで登場し、断捨離しながら沢山の思い出と反省と悲しみにまみれながら、新たな気持ちで前に歩み出す。そんな主人公の姿を清々しい気持ちで見守れる自分もまた、新たな人生を目指して前へ進もうという気分になれる。
ちなみに、本作で紹介する断捨離のコツは以下の通り。
①ゴールを設定し、真っ直ぐに進む。
②思い出に浸るな。
③感情に溺れるな。
④迷うな、人の気持ちなど考えるな。
⑤これ以上、物を増やすな。
⑥振り返るな。
如何ですか?参考になりそうですか?
(河田 真喜子)
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/
配給:サジフィルムズ、マクザム
協力:大阪アジアン映画祭 後援:タイ国政府観光庁
(C)2019 GDH 559 Co., Ltd.