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『燃ゆる女の肖像』

 
       

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作品データ
原題 PORTRAIT OF A LADY ON FIRE
制作年・国 2019年 フランス
上映時間 122分
監督 ・脚本:セリーヌ・シアマ
出演 ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ他
公開日、上映劇場 2020年12月4日(金)〜大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国ロードショー
受賞歴 第72回カンヌ国際映画祭脚本賞、クイア・パルム賞受賞
 

~ストイックで美しい歴史映画に見る、愛と自由を渇望する今と地続きの女性たち〜

 
 今、歴史映画がおもしろい。史実を基にした作品やアクション活劇だけでなく、女性が職業や結婚、人生を様々な形で抑圧されてきた時代に、その中で自由を求め、また本当の愛を求めて生きる姿を新しい感覚で描く女性監督が世界中で確実に増えているのだ。今年リアルとオンラインで開催された京都ヒストリカ国際映画祭では、世界の新作歴史映画を紹介するヒストリカ・ワールドでもウクライナ映画『義理の姉妹』、キューバ・スペイン合作映画『魂は屈しない』の2作で女性監督がその手腕を見せ、女性同士の友情以上の関係や閉鎖的な社会に対する抵抗を見事に描いてみせた。
 
 

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 第72回カンヌ国際映画祭脚本賞、クイア・パルム賞受賞したフランス映画『燃ゆる女の肖像』は18世紀、フランス・ブルターニュの孤島を舞台にした、まさに絵のような静寂さと緊張感がほとばしる秀作だ。見合い用の肖像画を描くためにやってきた画家マリアンヌと、修道院から連れ戻され意に添わぬ結婚をさせられることを拒むべく、肖像画家に顔を見せようとしない伯爵令嬢のエロイーズが、その後一生心に刻み続けることになる愛の日々を描いている。
 
 
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 最初は散歩相手としてエロイーズに近づくようにと伯爵夫人に念を押されたマリアンヌ。まだ女性画家が世に名前を出すことが憚られた時代、男性画家では手に負えなかったエロイーズの警戒心を解くために白羽の矢が立ったマリアンヌは、エロイーズと距離を縮めながら、記憶を頼りに肖像画を描いていく。エロイーズに全てを打ち明け、憤りとともに似ていないことを指摘されたマリアンヌは書き直すことを進言するものの、伯爵夫人から退去を言い渡されてしまう。その窮地を救ったのは肖像画に後ろ向きだったエロイーズ本人だった。
 
 
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 伯爵夫人が島を離れた5日間でようやく画家と被写体として向き合ったマリアンヌとエロイーズ。共に暮らす若い召使い、ソフィも交わり身分を超えた自由な時間を共有し、彼女の苦難を救おうとする同志のような結びつきを持ちながら、いつの間にか見つめ合う二人の間に特別な感情が生まれていく。歴史映画の特徴ともいえる暗闇の中にそっと蠟燭の灯りが照らす静けさをたたえた夜のシーン。寄せては返す波がまるで日本海の荒波のように二人の情熱をたぎらせる海辺のシーン。それら全てがマリアンヌとエロイーズの言葉にならない思いまでも掬い取っているようだ。島の女たちが夜、焚き火の周りに集まり、手を鳴らしながらアカペラで奏でる歌も抑圧された女たちの秘めたる情熱がみなぎっていた。
 
 
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 ノエミ・エルラン(『英雄は嘘がお好き』)が演じたマリアンヌの人生と、アデル・エネル(『午後8時の訪問者』)が演じたエロイーズの人生。ある意味真逆と言える二人の人生はこれから二度と交差することがなくても、肖像画の中に、そして二人の胸の内にかけがえのない時間として刻まれている。女性監督によるストイックで美しい歴史映画に、愛と自由を渇望する今と地続きの女性たちの姿を見ることだろう。
(江口由美)
 
配給:GAGA
公式サイト⇒:https://gaga.ne.jp/portrait/ 
(C) Lilies Films.
 

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