制作年・国 | 2020年 日本 |
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上映時間 | 133分 |
原作 | 綿矢りさ「私をくいとめて」朝日文庫/朝日新聞出版刊 |
監督 | ・脚本:大九明子 |
出演 | のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり/橋本愛 |
公開日、上映劇場 | 2020年12月18日(金)~テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー |
受賞歴 | 第33回東京国際映画祭観客賞 |
~「君は天然色」にのって贈る、おひとりさま女子の大きな一歩~
コロナ禍でリアルに映画祭を開催することが難しい中、通常どおりの形態で、コンペティションをなくし、観客が選ぶ観客賞のみにした今年の東京国際映画祭で見事その栄誉に輝いた『私をくいとめて』。オンラインで観たクロージングセレモニーで、大九明子監督と主人公を演じたのんが足を運んでくれた観客への感謝と、受賞の喜びを語っている姿が非常に印象的だった。前作の『勝手にふるえてろ』でも同映画祭で観客賞を受賞した大九監督が再び綿矢りさ原作に挑み、のんとさらにパワーアップしたおひとりさま女子の世界観を見せつける。のんが演じるちょっとこじらせ気味のみつ子の日常に飛び込もう!
一人暮らし生活をゆるゆる楽しんでいるアラサー女子、みつ子。いつの間にか、脳内には優秀な相談役Aが現れ、会社の先輩にも恵まれて特に不自由のない日々だったが、取引先の年下営業マン、多田くん(林遣都)と偶然家が近くだったことから、多田くんが晩御飯をもらいにくるようになってかれこれ一年が過ぎ、多田くんとの関係をどう進めればいいのか思いあぐねていた。Aに背中を押され、勇気を振り絞って多田くんの距離を縮めようとするみつ子だったが…。
無駄に声のいい脳内相談役Aさえいれば、全然寂しくないというみつ子の日常生活を、のんが絶妙のこじらせ具合で熱演。休みの日には掃除をして、往年のさわやか系名曲、大瀧詠一の「君は天然色」を聴きながら大の字になって寝っ転がる。いつの間にか多田くんの胃袋を掴んでいた料理の腕前もなかなかのもの。男性に対してどこか臆病なみつ子をいつも肯定し、自身はナルシスト男に熱をあげる会社の先輩おひとりさま、ノゾミさんを演じる臼田あさ美の抜け感も効いている。林遣都演じる多田くんもイケメンなのにどこか不器用だが、みつ子は彼よりも年上であることの負い目や、男性に対してあるトラウマを抱えていた。好き同士だと分かっても先を急いだ行動が相手を傷つけることもある。自分の押さえつけてきた心の声が爆発したとき、みつ子は悩みを誰かと共有し、乗り越えようとする意思を見せるようになるのだ。
大人の女性なら誰もが覚えがあるであろうエピソードとして、結婚した親友皐月を訪れるシーンが登場する。しかもイタリア!コロナ禍での撮影で、実際にイタリアロケをした訳ではないが、飛行機嫌いのみつ子が再び「君は天然色」をボリューム全開にしながら全力で空想の世界を広げるファンタスティックな機内シーンから、現地スタッフが撮影したというイタリアの風景、そしてイタリア人家族でクリスマスを祝う家の雰囲気と、しっかり非日常な気分が味わえる。何よりも皐月を演じる橋本愛とのんとの共演はNHK連続ドラマ小説以来で、当時10代だった二人が20代になり、片やアラサーおひとりさま、片や国際結婚してもうすぐ出産する女性を演じていることがとても感慨深い。お互いが歩む道は、時には隣の芝生が青く見えることもあるけれど、それぞれに喜びもあれば苦労もある。同じ環境にいて視野が狭くなってしまった時に、自分とは違う生き方を見せ、視野を広げてくれるのは自分と対極の環境にいる友達かもしれない。この二人だからよりリアルに感じる女友達との関係も大きな見どころだ。一人ボケツッコミができるような脳内のAが消え、リアルで対話しあえる関係性を作るようになるまで、全力であがくみつ子をパワフルに描いた見事な女性映画が誕生した。
(江口由美)
公式サイト⇒:https://kuitomete.jp/
(C) 2020『私をくいとめて』製作委員会