原題 | ABE |
---|---|
制作年・国 | 2019年 アメリカ |
上映時間 | 1時間25分 PG-12 |
監督 | 監督:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ 原案・脚本:ラミール・イサック、ジェイコブ・カデル他 |
出演 | ノア・シュナップ(「ストレンジャー・シングス」シリーズ、『アーニャは、きっと来る』)、セウ・ジョルジ(『シティ・オブ・ゴッド』『ライフ・アクアティック』)、ダグマーラ・ドミンスク、アリアン・モーイエド、マーク・マーゴリス ほか |
公開日、上映劇場 | 2020年11月27日(金)~テアトル梅田、京都シネマ、OSシネマズミント神戸 ほか全国順次公開 |
届け、少年エイブの願い!
寛容さが求められる今だからこそ、
人種も宗教も国籍も超えて、美味なるものに心を和ませよう。
2020年、大統領選で分断の危機にあるアメリカ。トランプ大統領支持派とバイデン氏支持派に分かれての非難合戦。マスクなしのトランプ支持派と顔付き合わせて非難し合う様子を見ても、アメリカの深刻なコロナ感染拡大が納得できるというもの。主義主張の違いで紛糾する今だからこそ、憎しみをつのらせるのではなく、同じアメリカ国民として解決すべき問題を共有すべきなのではと思う。だが、根底には想像を絶するような根深い差別や格差社会のいびつさがあり、容易に問題解決に至らない事情があるのだろうか…。
本作は、そんなアメリカ社会の一隅で、いがみ合う家族のために心和ませる料理を作ろうと奮闘する、健気な少年の物語である。
ニューヨークはブルックリンに住むエイブ(ノア・シュナップ)、12歳。イスラム系の父親とユダヤ系の母親という、何とまあ複雑な関係の民族同士の結婚で生まれたのがエイブだった。そのため両親は無神論者となり、どちらの宗派にも属さないと決めていた。ところが、誕生会や記念日などでそれぞれの祖父母や叔父が集まると、喧々囂々の言い争いが始まる。せっかく用意された料理を堪能するどころではない。配慮も遠慮も譲歩もない。子供にとって耳を覆いたくなるような状況だ。
そんなエイブの趣味は料理。SNSで自分が作った料理を発信してはストレスを解消している。両親は自分たちのことで精いっぱいなのか、エイブの声にまともに耳を傾けることができずにいた。そこで、独自に料理の勉強をするため、親に内緒でいろんな国の料理が味わえるフードフェスへ行ってみることに。そこでブラジル人のシェフ・チコ(セウ・ジョルジ)と出会い、彼を通じて料理の奥深さや可能性を見出していく。教えを請うための辛い修行にも耐え、チコとその仲間たちの多国籍料理を学びながら、さらに自分流にアレンジできるようになる。そして、自分の誕生日の料理を自分で作って家族をもてなそうとするが、……。
家族が仲良くなれるように一所懸命に料理を作るエイブの健気さに胸が熱くなる。一体大人たちは何のために言い争うのだろうか。彼らの主義主張のせいで大切な子供が心を痛めているというのに…。歩み寄る謙虚さはないのか、相手の立場に配慮する優しさはないのか、少しでも認め合い寛容になれないものなのか。美味しいものを食べられるだけで幸せなことなのに、ましてや、大切な人が心を込めて作ってくれた料理を味わえるなんて、こんな贅沢なことはない。我々にも、そんな至福の時が意外と身近にあるのでは?と気付かせてくれる。
エイブを演じたノア・シュナップ(2004年10月生まれ)は、TVシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(‘16-’21)や、スティーブン・スピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』(’15)に出演し、本作が映画初主演となる。日本では同時期公開の『アーニャは、きっと来る』にも主演。今後も活躍が期待される美少年である。
いろんな国の移民が多く住むブルックリン。チコがエイブにした質問がいい。「どこの出身?」「いや、住んでいる場所ではなく、君のルーツだよ」と。そう、移民の多いアメリカならではの質問だと思った。その人が持つルーツやアイデンティティこそが重要で、それらを理解した上で認め合い、少しは寛容になれるのかもしれない。エイブの複雑な家庭事情が生んだ料理のフュージョンは、そのまま人種や宗教や国籍を超える人類愛のフュージョンとなることを願わずにはおられない。
(河田 真喜子)
公式サイト: http://abe-movie.jp
配給:ポニーキャニオン
© 2019 Spray Films S.A.