原題 | The High Note |
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制作年・国 | 2020年 アメリカ・イギリス合作 |
上映時間 | 1時間54分 |
監督 | 監督:ニーシャ・ガナトラ(『レイトナイト 私の素敵なボス』) 脚本:フローラ・グリーソン 製作:アレクサンドラ・ローウィー、ネイサン・ケリー |
出演 | ダコタ・ジョンソン、トレイシー・エリス・ロス、ケルヴィン・ハリソン・Jr、アイス・キューブ 他 |
公開日、上映劇場 | 2020年12月11日(金)~全国ロードショー |
~「好きの力」を発散させる女性の音楽映画~
『ブロードキャスト・ニュース』(1987年)、『ワーキング・ガール』(88年)、『プラダを着た悪魔』(2006年)……。確固たる目標に向かって若い女性がひたむきに頑張る姿を描いた映画、すごくええですね。もちろん若い男性でもOKですが、なにせ女性の方が映像にグッと華やぎを与えてくれますからね。
ハリウッドを舞台にしたこの『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』はその典型的な映画。しかもぼくの大好きな音楽映画とあって、冒頭からのめり込んでしまいました。ヒロインは、世界的に知られるグレース・デイヴィスという黒人女性シンガーの付き人をしているマギー・シャーウッドというヤング・ウーマン。肩書はアシスタントですが、付き人以外の何モノでもありません。
付き人ってマネージャーとは全く異なります。スケジュール調整をはじめ、「ご主人様」が脱ぎ捨てた服をたたんだり、料理から嫌いなピーナッツを取り除いたりと雑事をことごとくこなすんです。すべてにおいてグレースを忖度し、機敏に動き回らなければなりません。
当然、プライベートな時間を犠牲にせねばならず、よほど忍耐強い人でないと無理。お給金も労働実態に見合わず、「超ブラック」な仕事であるのは間違いでしょう。ぼくなら30分でギブアップですわ。あまり知られていない職業を取り上げたのは注目に値しますね。
この厳しい仕事をマギーは3年間も続けています。それは音楽が好きで好きでたまらなく、そのうえ子どものころから憧れていた歌姫グレースに惚れ込んでいるからでしょう。彼女の父親(ビル・プルマン)がラジオ音楽番組のDJなので、物心ついたときから音楽にどっぷり浸っていたのが大きい。やはり家庭環境が大きく影響しますね。
そんなマギーが目指すのは音楽プロデューサー! 彼女には楽曲をブラッシュアップさせる才能があるのです。天性と言ってもいいでしょう。だからプロデューサーにはうってつけ。とはいえ、まだまだ男性の職業分野です。一朝一夕には実現できないのがわかっているのに、常に前を向いて歩いていく、その姿勢に拍手を送りたくなります。
とにもかくにもマギーに扮したダコタ・ジョンソンが素晴らしい。めちゃめちゃ可愛いです。父親がドン・ジョンソン、母親がメラニー・グリフィスと両親がともに著名俳優。2人の良いところを受け継いでいます。彼女の笑顔がこの映画を支えていました!
一方、グレースはアラフォーのベテラン歌手ですが、過去のヒット曲ばかり歌っており、もはや「伸びしろ」がない状況。正直、焦っており、かといって、新曲を盛り込んだアルバムを出そうと思うも、「ヒットしなかったら、惨めになる」と保守的なマネージャー(アイス・キューブ)に抑え込まれます。こんな歌手、日本でもいてはるんとちゃいますかね。例えば、S・M、S・I……とか(わかりますか?)。グレースはまさに人生の岐路に差しかかっているのです。
このシンガーに扮したトレイシー・エリス・ロスは、あのダイアナ・ロスの娘さん。こちらも2世です。目元がよぉ似てますわ。本作で初めて歌声を披露したそうですが、お母ちゃんよりも声が太くて声量があった!! 母親は今や78歳なんですねぇ。世代の移り変わりを実感させられます。
そのグレースに何とか新たな光を与えようとするマギーの前に、歌唱力のある黒人青年デヴィッドが現れる。この人物に扮したケルヴィン・ハリソン・Jrの地声もすごかった! ホンマもんです。サム・クックの『ユー・センド・ミー』など数曲、歌っていますが、どれも聴き入ってしまった。
マギーとデヴィッドが恋に落ちるのに時間がかからなかった……。ここはしかし、もう少し2人の距離を置いてほしかった。安易に恋人同士になってしまうと、典型的なハリウッド映画になってしまいますがな。といっても、これはハリウッド映画ですね。ほな、しゃーないか(笑)
マギーとグレースの関係はなかなか興味深い。主従関係だけでは捉えきれない微妙な間柄。友情、尊敬、思いやり、同情……と主人に対していろんな感情がマギーに湧き起ってくるところが見どころです。ともに逆境の中でチャレジしたがっています。何だか運命共同体のようにぼくには思えました。
マギーがグレース、デヴィッドと絡み、挫折を味わいながらも少しずつ、地歩を固めていきます。落ち込んでも、絶対に諦めない。なぜなら音楽が好きだから。これぞ「好きの力」! ここまで来たら、「夢」ではなく、「目標」です。彼女はとっくに勝負できる「土俵」に上がっているのですから。
正直、庶民とかけ離れたセレブの世界というのがちと鼻につきました。でも、エンタメ業界の裏側を垣間見ることができ、ミュージシャンの付き人の実態を知ることができ、全編を包み込む魅惑的なサウンドの数々に聴き入ることができ、非常に楽しく観ることができました。それもこれもダコタ・ジョンソンの魅力があってこそ。
エネルギーを出し続ければ、「幸運の女神」が微笑んでくれるんですね。監督はぼくにとって未知なるニーシャ・ガナトラというカナダ人女性。映画のテーマを見事に表現してくれました。いやはや、めちゃめちゃ後味の良いサクセス・ストーリー。それにしても、ラストの「どんでん返し」には驚かされた~!
武部 好伸(エッセイスト)
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