制作年・国 | 2020年 日本 |
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上映時間 | 2時間17分 |
原作 | 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」(河出文庫) |
監督 | 監督・脚本:沖田修一 撮影:近藤龍人 音楽:鈴木正人 主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」(スピードスターレコーズ) |
出演 | 田中裕子 蒼井 優 東出昌大 / 濱田 岳 青木崇高 宮藤官九郎 田畑智子 黒田大輔 山中 崇 岡山天音 三浦透子 / 六角精児 大方斐紗子 鷲尾真知子 |
公開日、上映劇場 | 2020年11月6日(金)~TOHOシネマズ(梅田、西宮OS)、京都シネマ、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸、他全国ロードショー |
~75年の人生を振り返り、なりたい自分を自由に生きられる幸せ~
あの『南極料理人』『横道世之介』『滝を見にいく』『モリのいる場所』など、不器用な生き方をしながらも飄々と自由に生きる幸せをユーモラスな演出で印象付ける沖田修一監督。今回は、63歳の新人小説家として脚光を浴びた若竹千佐子の同名小説を、独自の世界観で人生を語り共感を呼ぶこと必至。誰しもが経験する老いと孤独。いま一度人生を振り返って、なりたい自分になれているのか、引きこもっている場合ではない、今こそ自由に生きられるチャンス!とエールを送ってくれるような人生讃歌の映画である。
75歳という実年齢より10歳上の桃子さんを演じたのは田中裕子。背中や膝の曲がり具合など、まだ80歳ではないので中程度の老女役の成りきり方が実に絶妙。独居老人の孤独といっても、彼女が演じるとどこか親しみやすい可笑しみが滲み出て温かい。桃子さんの若かりし頃を演じているのは蒼井優。彼女ほど“昭和の女”が似合う女優はいないと思う。初々しい振袖姿に、うどん屋で初めて働いた時の戸惑いや、気になる男性を遠くから見つめる表情など、さり気ない仕草からも強い想いを感じさせる稀有な女優だ。
ひとり暮らしの桃子さん(田中裕子)、75歳。夫に先立たれ、息子は行方不明、娘(田畑智子)は結婚して孫一人。毎日特別な用事はなくても決まった時間に起きて、TV見ながら朝ご飯食べて、近くの図書館へ地球科学の本を借りに行くのを日課にしている。おなじみの司書の人(鷲尾真知子)に大正琴や太極拳に誘われても毎回パス。家では、ちゃぶ台の上に置かれた常備食の雑魚をポリポリ食べながらTV見て、ひとり分の晩ご飯作っては食べて、46億年の地球の日誌を付けて寝る。掛かってくる電話は「オレオレ詐欺」、親切に話し掛けるのは自動車販売の営業マン(岡山天音)ぐらい。娘も滅多に寄り付かない。たまに来たかと思えばお金の無心。
何とまあ愚痴のひとつもこぼしたくなるような孤独な日々だ。そんな桃子さんの本音を代弁するかのような変な男3人(濱田 岳・青木崇高・宮藤官九郎)が現れる。桃子さんと同じ手編みのちゃんちゃんこ着て、故郷の東北弁で喋る。惰性で生きているような桃子さんに鋭いツッコミを入れたり問い掛けたりと、次第に過去が甦ってくる。1964年、東京オリンピックで日本中が熱気に溢れていた頃、桃子さん(蒼井優)は親が勧めるお見合いの席を抜け出し、「おら自由な女だ!」と単身上京。自分のことを「おら」から「わたし」と呼ぶようになり、飾らぬ熱血男子(東出昌大)と結婚。二人の子供に恵まれるも、息子は家出、夫にも先立たれ、今は孤独な日々を送っている。そんな自分を見つめ直し、本当になりたい自分になれているのか、と自問自答するのだった……。
淡々と孤独な桃子さんの日常を見せながらも、桃子さんの孤独が生んだ3人の座敷童みたいな男たちに濱田 岳・青木崇高・宮藤官九郎という超個性的な面々を登場させたり、居間が急に開けて《歌謡オンステージ》に転換したり、46億年の地球の歴史のアニメが登場したりと、意外な程のファンタジックな演出に驚かされる。昭和・平成・令和と生きて来た人には共感する部分も多いと思う。あっという間に年月は流れ振り返る暇などないかもしれないが、時には若き日の自分と対峙して、今の生き方を見つめ直すいい機会になるのかも知れない。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/
企画・制作・配給:アスミック・エース 製作: 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
©2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会