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『朝が来る』

 
       

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作品データ
制作年・国 2020年 日本
上映時間 2時間19分
原作 辻村深月(「朝が来る」文春文庫)
監督 監督・脚本・撮影:河瀨直美
出演 永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、中島ひろ子、平原テツ、田中偉登、駒井蓮、利重剛他
公開日、上映劇場 2020年10月23日(金)~TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、あべのアポロシネマ、T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー

 

~養子縁組をめぐるそれぞれの愛や心の叫びをじっくりと映し出す~

 

「特別養子縁組」という制度がある。私も詳しくは知らなかったのだが、「普通養子縁組」とは異なり、養子となる子供と実の親との法的な親子関係が解消される。ゆえに、養親とその子供は実の親子のような関係を結ぶわけで、戸籍でも「養子」と表記されない。日本国内での特別養子縁組はここ数年増加傾向にあり、年間500~600件成立しているという。この制度についてリサーチを重ねた辻村深月原作の小説を、河瀨直美監督で映像化したのがこれ。得意のドキュメンタリータッチにサスペンスの香りも加えながら、見応えのある人間ドラマに仕上げている。

 
asagakuru-500-3.jpg栗原清和(井浦新)と佐都子(永作博美)の夫婦には、6歳になる朝斗(佐藤令旺)というやんちゃ盛りの息子がいる。夫婦は、もうすぐ小学校に入る朝斗の成長ぶりに目を細めながら日々を送っていた。だが、朝斗は彼らの実の子供ではなかった。自分たちの子供を持つという夢を諦めかけていた夫婦が、特別養子縁組という制度を知り、NPO法人の仲介によって引き取った子供である。実の母親は当時14歳の片倉ひかり(蒔田彩珠)という少女で、幼く向こう見ずな恋の結果が妊娠だった。それから月日が流れ、栗原夫妻の家にかかってきた電話は衝撃的なものだった。相手は片倉ひかりと名乗る女で、「子供を返してほしいんです」と言う。やがて、その女は栗原夫妻の前に姿を現すのだが…。

 
asagakuru-500-1.jpg不妊の悩みを突き抜け、たとえ自分たちの血を受け継がなくとも新しい命を大切に育てていくことを決意した清和と佐都子の夫婦、青春の熱い恋と出産を体験し、我が子を手放した後、紆余曲折の道をたどってゆくひかり。それぞれの人生模様が、現在と過去を往来しつつ、きめ細やかに綴られていく。「子供が欲しい」と切実に考えたことがある女性ならば、佐都子の立場でも、ひかりの立場でも、共感を覚えることが多いだろうと思う。

 
asagakuru-500-2.jpgそして、NPO法人「ベビーバトン」を主宰する浅見(浅田美代子)の、「子供にも真実を知る権利があるんです」という言葉が印象的だ。このような養子縁組は、大人と大人の間で交わされるもので、時には当事者である子供に何も打ち明けず、秘密のベールでくるんで行われてきたことも多いのではないだろうか。河瀨監督は原作者の辻村深月に対して、「映画化にあたって、朝斗のまなざしが必要不可欠だと思っています」と、ほとんど“宣言した”らしいのだが、それはまさにこの映画の要の一つだと私は見ている。


asagakuru-500-4.jpg二人組の男性シンガーソングライターユニットC&Kによって書き下ろされた主題歌「アサトヒカリ」が心を揺さぶる。登場人物の名前「あさと」「さと(こ)」「ひかり」を組み合わせたというタイトルも粋だ。生活環境も生き方も全く違う人々が、あることがきっかけで交差し、苦しみ悩んだ末に希望の文字を胸に描く。その姿は実に感動的だといえる。これまでの河瀨直美監督作のイメージとは少し異なる作風と、達者な演技陣に惹かれた。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:http://asagakuru-movie.jp/

配給:キノフィルムズ

©2020「朝が来る」Film Partners

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