原題 | HOUSE OF CARDIN |
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制作年・国 | 2019年 アメリカ・フランス |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | 監督/プロデューサー:P.デビッド・エバーソ-ル&トッド・ヒューズ |
出演 | ピエール・カルダン、ジャン=ポール・ゴルチェ、ナオミ・キャンベル、森英恵、桂由美、アリス・クーパー、シャロン・ストーン、高田賢三、グオ・ペイ、フィリップ・スタルク |
公開日、上映劇場 | 2020年10月2日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、10月9日(金)~京都シネマ 他全国順次公開 |
98歳の現役デザイナー、ピエール・カルダン。
未来志向のデザインで世界を牽引してきた巨匠のすべて!
「ピエール・カルダン」の名を聞いたことのない人はいないのでは?と思える位、我々の生活に浸透しているブランドである。男女のファッションに留まらず、インテリアや小物・機器に至るまであらゆる物に彼のブランドは及び、それらのライセンス化によるビジネスも大成功を収め、デザイン界の一大帝国を築いた人物である。しかも、共産主義国の旧ソ連や中国などへハイファッションの洗礼をもたらしたのも彼。その影響力や、デザイン界のみならず文化・芸術にも及んでいる。本作は、今なお未来を見つめるピエール・カルダンの創造力の源を探る絶好の機会となっている。
ピエール・カルダンは、1922年イタリアはヴェニスの近くで、9人兄弟の末っ子として生まれ、2歳の時にムッソリーニ政権台頭により一家はフランスへと移住。貧しい生活の中、第二次世界大戦が始まる頃には仕立屋で働いていた。幼い頃から姉たちと人形遊びをしながら、意味も分からず「デザイナーになるんだ!」と言っていたそうだ。1945年、戦後すぐに、パリのマダム・パカンのアトリエで働くようになり、そこで『美女と野獣』を製作中のジャン・コクトーやパオロ・パゾリーニなどの芸術家と知り合うようになる。23歳という若き美男子は、「皆が私と寝たがったよ」と豪語する程のモテぶりだったようだ。翌年には、「私の人生はディオールから始まった」と言う程の影響を受けたクリスチャン・ディオールのアトリエで働くチャンスに恵まれる。
それからというもの、28歳で独立、31歳で初のオートクチュール・コレクションを発表し、世界の有名ファッション評論家に認められ、ヒット作を次々と発表。旧デザインを再構築したようなモダンなデザインは、特にアメリカで大ヒットしたようだ。彼のモットーは、「開かれたファッション」。「ファッションはブルジョアだけのものではなく、多くの人に提供したい」と、リーズナブルな価格帯でデパートにも進出。そのためオートクチュール協会から追放されるが、それからというもの、プレタポルテ(既製服)の先駆者としてその名を世界に轟かせていくことになる。
ビートルズのシンボルスタイルとなったノーカラージャケットもピエール・カルダンのデザイン。紳士物も手掛けるようになり、堅苦しいスーツではなく、リラックスしたオシャレなデザインのカジュアルスタイルを提供。さらに、「多様性は元気を与えてくれる」という考えから、白人が中心だったモデルをアフリカ系やアジア系など多様な人種のモデルを起用。旧態を嫌う若者の指示を受け、1960~70年代の自由民権運動や女性解放運動にも影響を与えていく。
あのジャンヌ・モローが、唯一結婚したいと思った男性がピエール・カルダンだったとは!?――同棲していたが結婚には至らず。彼は同性愛者だと思われていたので、まさか人気女優と恋仲だとは驚かれたようだ。また、かつてオートクチュール協会からの追放と共に入店拒否された、高級レストラン「マキシム・ド・パリ」を買い取り、アール・ヌーヴォー美術品のコレクターにもなる。晩年には、大の演劇好きが高じて劇場を買い取り、ジェラール・ドパルデューをはじめ俳優や歌手などのアーティストの援助もしている。
仕立屋としての高い技術と、未来志向のモダンなデザインに、「ピエール・カルダン」というライセンス事業――本作の興味深いところは、戦後と共に始まったピエール・カルダンのデザイナーとしての人生に迫りながら、近現代史の生活スタイルや文化・芸術の変遷も見られることにある。「人生を充実させられれば、それで満足」――100歳を間近にして、彼の眼に未来はどうのように映っているのだろうか。本質を捉える眼を持ったピエール・カルダンから、私たちは何を学び取れるのだろう。是非、劇場でお確かめ下さい。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://colorful-cardin.com/
配給:アルバトロス・フィルム
©House of Cardin - The Ebersole Hughes Company