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『星の子』

 
       

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作品データ
制作年・国 2020年 日本
上映時間 110分
原作 今村夏子「星の子」朝日文庫/朝日新聞出版刊
監督 ・脚本:大森立嗣
出演 芦田愛菜、岡田将生、大友康平、高良健吾、黒木華、蒔田彩珠、永瀬正敏、原田知世他
公開日、上映劇場 2020年10月9日(金)~TOHOシネマズ梅田、テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー
 
 

~何を信じていいかわからない時代に贈る、ある家族の愛の物語~

 
 数々の最年少新人賞、出演記録を打ち立て、子役の中でも秀でた存在だった芦田愛菜。行定勲監督の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(14)で普通が大嫌いな小学3年生を表情豊かに演じていたのが昨日のことのようだ。学業を優先させながら芸能活動を自分のペースで行ってきた芦田が大きく成長し、本作『星の子』では等身大の中学3年生、ちひろを演じている。あるきっかけから、あやしい宗教に心酔している両親の元に育ち、自分の家族が普通ではないと気づいたとき、ちひろの気持ちはどのように動いていくのか。『日日是好日』の大森立嗣監督が、ともすればスキャンダラスになりがちな新興宗教を題材にした物語を、原作のテイストを踏襲し、繊細に描いたヒューマンドラマ。何を信じていいかわからない時代に、改めて向き合いたいと思える作品だ。
 
 ちひろ(芦田愛菜)は両親(永瀬正敏・原田知世)と5歳年上の姉ちーちゃん(蒔田彩珠)の4人 家族。未熟児として生まれ、病弱だったちひろのためにあらゆる治療を試した両親は、ある時『金星のめぐみ』という 特別な生命力を宿したという“水”の存在を知り、その水でちひろの体を洗うと病状が改善していった。それ以来、両親は謎のあやしい宗教に心酔し、自分たちもその水を浸したタオルを頭に乗せて暮らすようになる。そんな両親に嫌悪感を覚えたちーちゃんは何度か家出をした後、書き置きを残して出ていってしまう。ちひろは学校でもそれなりに友達ができ、充実した生活を送っていたが、新任の数学教師、南先生(岡田将生)に恋したことから、ちひろの日常が少しずつ変わり始める。
 
 
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 子どもの病気を治したい一心から新興宗教に心酔していったちひろの家では、グッズで溢れている。両親は常にジャージ姿で頭には水に浸したタオルが置かれているのは一見シュールな光景だが、永瀬正敏と原田知世が演じる両親から伝わるのは我が子へのひたむきな愛と、周りに何を言われようが信じる思いの強さだ。こういう家族の中で育ち、小さい時から特別な“水”を飲んで育ってきたちひろにとって当たり前の日常を、好意を寄せていた南先生に見られたことでちひろの中に大きな動揺が起こる。ちひろのことを案じ、両親から距離を置かせようとする叔父(大友康平)の進言にも屈することなく、自分が信じるものを貫こうと決めるまでのちひろの心の動きを、芦田愛菜が揺るぎない芯を持って演じている。
 
 
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 この物語がどこか寓話のように見えるのは、家族が新興宗教に心酔していることが級友に分かっても学校でことさらいじめを受けることもないし、宗教団体の合宿集会のシーンも大仰ではなく、自然に描かれていることが大きいのではないか。高良健吾、黒木華らが演じる宗教団体の幹部たちも、比較的ニュートラルな印象を与える。そして親の育児放棄や児童虐待が題材となることの多い昨今にあって、親が愛情をたっぷり注いで子どもを育てる姿にも、本作はそれがある意味極端ではあるが新鮮さを覚えるのだ。人間は何か心の拠り所があることで、辛い今を生き抜いていける。ちひろにとってそれは何なのか。またこの両親にとってそれが何なのか。そして観客にもそれを問いかけているような、優しい余韻があった。
(江口由美)
 
公式サイト⇒:http://hoshi-no-ko.jp/ 
配給:東京テアトル、ヨアケ
(C) 2020「星の子」製作委員会

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