原題 | MADRE 2019年 |
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制作年・国 | スペイン・フランス |
上映時間 | 2時間9分 |
監督 | ロドリゴ・ソロゴイェン |
出演 | マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュール、アンヌ・コンシニ、フレデリック・ピエロ他 |
公開日、上映劇場 | 2020年10月23日(金)~シネスイッチ銀座、テアトル梅田、京都シネマ、11月20日(金)~シネ・ピピア、順次神戸元町映画館ほか全国ロードショー |
受賞歴 | 2019 年・第 76 回ヴェネチア映画祭 オリゾンティ部門出品 女優賞受賞 |
息子を失った女の傷心は、恋にも似たジグザグ模様を描き、
そして…たどり着く
ヒロインのエレナ(マルタ・ニエト)が、幼い息子からの電話を受けるという冒頭のシーンから一気に引き込まれる。エレナは離婚していて、息子は元夫と旅行をしているのだが、元夫は息子を海辺に置いたままどこかへ行ってしまい、帰ってこないという。小さな息子にはその海辺がどこだかわからず、エレナの不安をよそに携帯電話はだんだん途切れがちになってゆく。定位置に置かれたカメラは、ちょっと珍しいアングルからエレナの心配と苛立ちの増量を刻々と写し撮り、そうしてついに息子が持っている携帯電話のバッテリー切れにより、通話はぷつりと途絶えてしまう。
ここまでが、物語の前段。それから10年後、エレナは息子が失踪した海辺のレストランで働いているのだが、ある日、すれ違った少年が発する何かを感じて、思わず振り返った。もし息子が生きていれば同じような年頃のその少年ジャン(ジュール・ポリエ)は、息子のおもかげを宿しているような気がしたのだ。ここから、エレナは衝動を抑えきれない自分や世間の常識と闘うことになる。
第91回アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされたほか、スペイン国内外で50以上もの映画賞を獲得したワンカットの短編作品『Madre』の発展形がこの作品。ロドリゴ・ソロゴイェン監督は、「エレナの物語を続けたい」と思い、短編でもエレナを演じていたマルタ・ニエトを再び呼び寄せることになった。
息子の分身のようで気になってしかたがないジャンの存在。それは、胸の中で密かに愛撫すべきものだったろう。ところが、ちょっと小生意気だけれど、うぶで、純で、背伸びをしてみせる美しい少年ジャンのほうから、ずいぶん年上のエレナに急接近してきたあたりから、もう一つの物語が幕を開ける。エレナの恋人ヨセバ(アレックス・ブレンデミュール)がほとんどジェラシーの色をにじませるほどに。
大人の女性としてのブレーキと、ヨセバの深い愛、そして、けして消えはしない悲しみと向き合った時間が、エレナを徐々に新しい境地へと誘ってゆく。エレナが最後に電話をかけた相手は一瞬意外な人物に思われたが、きっとそうあるべきだったのだと思い直した。一本の電話で始まり、一本の電話で終わる構成はみごとで、このエンディングは観る者の想像力を刺激する。彼女は相手に何を語り、そして何を選択したのか。それが希望というものであってほしいと私は切に願うのだが。
(宮田 彩未)
公式サイト:http://omokage-movie.jp/
配給:ハピネット
©Manolo Pavon