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『mid90s ミッドナインティーズ』

 
       

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作品データ
原題 Mid90s   
制作年・国 2018年 アメリカ
上映時間 1時間25分 PG-12
監督 監督・脚本:ジョナ・ヒル(出演:『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『ドント・ウォーリー』)
出演 サニー・スリッチ(『ルイスと不思議の時計』『聖なる鹿殺し』)、キャサリン・ウォーターストーン(『インヒアレント・ヴァイス』『ファンタスチhック・ビースト』シリーズ)、ルーカス・ヘッジス(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『スリー・ビルボード』『ある少年の告白』『ウェイブス』『ハニー・ボーイ』)、ナケル・スミス、オーラン・プレナット、ジオ・ガリシア、ライダー・マクラフリン、アレクサ・デミー
公開日、上映劇場 2020年9月4日(金)~新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、京都シネマ、9月11日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

1990年代半ばのLA、カッコつけていた少年時代、

スケートボードを通して見えた世界

 

子供の頃の、恐る恐る新たな世界へ一歩踏み出した時の戸惑いとトキメキが甦ってくるような映画が『mid90s ミッドナインティーズ』である。本作は、『マネーボール』ではブラッド・ピット、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』ではレオナルド・ディカプリオ、『ドント・ウォーリー』ではホアキン・フェニックスと、多大な影響を与える助演で印象深い、あの太っちょ俳優ジョナ・ヒルの初監督作品。しかも、LA育ちの彼自身の少年時代の思い出をモチーフにしているというから驚きだ。スタジオ「A24」が放つ、「ジョナ・ヒルによる『レディ・バード』」と言われる所以である。


mid90s-500-3.jpg13歳のスティーヴィー(サニー・スリッチ)は、シングルマザーの母ダブニー(キャサリン・ウォーターストーン)と、父親の違う兄イアン(ルーカス・ヘッジズ)との3人暮らし。兄のイアンにいつも訳もなく殴られていた。体格差のある兄にはまだまだ敵わない。いつかやり返したいと思いつつ、音楽好きな兄の世界への憧れも抱いていた。そんなある日、スケートボードのコートハウスでひときわ上手い少年たちを見かける。そのカッコよさに惹かれ、遠くから眺めていたが、思い切って彼らがたむろするスケートショップの中へと入っていく。かなりの勇気が要っただろう。スケートボードを通じて新たな世界が開けていくことになる。


一番スケートボードが上手いレイ(ナケル・スミス)は、家庭内DVや人種差別の問題を抱えながらも仲間を大切にしていた。レイの一番の親友で陽気なファックシット(オーラン・プレナット)は、裕福な家庭ながら優秀な家族の中でひとり卑屈な思いを抱えていた。いつも黙って仲間を撮り続けるフォースグレード(ライダー・マクラフリン)は貧しい家庭環境にもめげず、将来映画監督になる夢を持っていた。一番年下のルーベン(ジオ・ガリシア)は、仲間外れにならないよういつも皆に調子を合わせていたが、彼もまた移民家庭の貧困やDV問題を抱えていたのだ。


mid90s-500-1.jpgNYだとバスケットコートを舞台にして薬物などの犯罪に巻き込まれるケースが多いが、LAだとコートハウスが舞台。寄る辺ない少年たちの溜まり場は危険なこともいっぱいある。仲間とはいえ、立場や個性も違って妬ましく思うこともある。ある日、スティーヴィーの母親が、「この子はあんたたちとは違うのよ!」と怒鳴り込んできた。仲間を否定されて怒りがこみ上げるスティーヴィーは、初めて感情を爆発させる。彼らこそが、いろんな経験をさせてくれて、視野を広げてくれて、父親の居ないスティーヴィーにとってはもうひとつの家族のようなものだったのだ。


mid90s-500-2.JPG内心いつかは成功してこの逆境から抜け出したいと思いつつ、あまりやる気を前面に出すのはダサいと思われるので、余計にカッコつけたがる少年たち。それぞれの個性が際立ち、主演のサニー・スリッチもナケル・スミスもプロのスケートボーダーで、サニー以外は映画初出演だという。ジョナ・ヒル監督は、レイを演じたナケル・スミスについて「やる気にあふれているのに、ダサさがない」とそのリアルな演技を絶賛。サニーも本当はプロ級なのに、下手に滑るのは大変だったろう。レイとスティーヴィーが夕陽をバックに自動車道の中央分離帯を滑るシーンの美しいこと!90年代の多彩なサウンドを背景に、家族や仲間を思い遣る気持ちの輝きが印象深い作品となった。


あれから20年以上経った現代、デジタル化はどんどん進化していき、益々スピードアップされているが、貧困や家庭内暴力、人種差別などの社会問題は山積したままで、少年たちを取り囲む環境もなんら好転してきていない。「意味のある話を描きたい」というジョナ・ヒルの監督としての活躍にも期待したい

 

(河田 真喜子)

公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/

配給:トランスフォーマー

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