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『ソワレ』

 
       

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作品データ
制作年・国 2020年 日本 
上映時間 111分
監督 ・脚本:外山文治
出演 芋生悠、村上虹郎、岡部たかし、康すおん、江口のりこ、石橋けい、山本浩司他
公開日、上映劇場 2020年8月28日(金)~テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー
 

~ただ二人で逃げたあの夏、そこに全てがあった~

 
   伸びやかな肢体、運動能力の高さ、そして若手女優の中でも独特の存在感を示す芋生悠のことを知ったのは、昨年の大阪アジアン映画祭だった。新鋭監督の斬新で挑戦的な作品を紹介するインディ・フォーラム部門作品『左様なら』『JKエレジー』、特別招待作品部門作品『恋するふたり』の3作品に主演、助演で出演していたのが芋生悠で、3作品が同日上映された日はまさに「芋生悠映画祭」と化した。3回とも違う衣装で舞台挨拶に臨んでくださり、来場のお客様だけでなく、スタッフ一同ファンになったことは言うまでもない。そんなネクストブレイク女優の芋生悠が、豊原功補、小泉今日子らのプロデュースによる、外山文治監督(『わさび』)のオリジナル長編『ソワレ』で主人公タカラを演じている。和歌山県を舞台に、重い過去を抱えて地元で黙々と働くタカラと、俳優を目指して上京したもののオレオレ詐欺で食いつなぐしかなかった翔太(村上虹郎)の出会いと逃避行の物語。説明を排除した映画的表現を目指す外山監督の手腕に注目したい。
 
 
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ある夏の日、故郷和歌山の高齢者施設へ演劇を教えにやってきた翔太は、そこで働くタカラと出会う。夏祭りの日、演劇メンバーに催促され、タカラを誘いに自宅へ向かうと、タカラは刑務所から出所した父親から激しい暴行を受けていた。翔太が止めに入るも、タカラは父親を刺してしまう。咄嗟にタカラの手を取った翔太と手を引かれたタカラは、夏の日差しの中、駆け出していくのだった…。
 
 
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 冒頭のオレオレ詐欺、そして高齢者施設と現代社会の高齢者をめぐる状況を赤裸々に映し出すのかと思いきや、物語は若い二人の逃避行へと大きく舵を切っていく。恋人同士ではない二人だが、それぞれの心の中にフツフツと湧き上がっていたマグマが爆発したかのように、穏やかな田んぼが広がる紀州路を走り抜ける姿は、静の中の動であり、絶望的な日常から、少しずつ生きる意味を取り戻しているようにも映る。紀州の名産である梅干し農家で束の間の安息の時間を迎える二人を、江口のり子演じる農家の妻が訳も聞かずに受け入れてあげる姿も、監視・密告社会の現在らしからぬ、微笑ましさが滲む。警察の追っ手をかわし、束の間、駆け落ちした恋人たちのような時間を過ごしたかと思えば、また逃げる。特に芋生悠の走りっぷりの力強さは、タカラの本能が呼び覚まされていく様子と呼応するかのよう。その表情、走り姿を見ているだけで、タカラの内面が確実に表現されているのだ。
 
 
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 ソワレとは、フランス語で夕方、夕方の公園を指すという。本作では、地元の道成寺に伝わるとされる伝説で、古くから上演されてきた安珍と清姫の伝説が度々登場するが、演劇的要素を加え、二人の心の声をそこに重ねた美しく、幻想的なシーンに昇華させている。生々しい現実に絡め取られそうになっている二人が逃げたあの夏は、この先何があってもその思い出を糧に生きていけるのではないか。そう思える二人の魂の共鳴が、切なくも清々しかった。
(江口由美)
 
 
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公式サイト⇒:https://soiree-movie.jp/ 
配給・宣伝:東京テアトル
(C) 2020 ソワレフィルムパートナーズ
 

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