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『シチリアーノ 裏切りの美学』

 
       

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作品データ
原題 IL TRADITORE  
制作年・国 2019 年 イタリア、フランス、ブラジル、ドイツ合作
上映時間 2時間32分
監督 監督:マルコ・ベロッキオ(『夜よ、こんにちは』『甘き人生』) 音楽:ニコラ・ピオヴァーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』)
出演 ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』『家の鍵』『家族にサルーテ!~』)、ルイジ・ロ・カーショ(『ペッピーノの百歩』『僕の瞳の光』『輝ける青春』)、マリア・フェルナンダ・カンディド、ファウスト・ルッソ・アレジ
公開日、上映劇場 2020年8月28日(金)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国ロードショー

 

~シチリア人としてのプライドを賭けたマフィアとの闘い~

 

1992年5月23日、イタリアの判事夫妻が護衛もろとも爆殺されたというニュースが世界を駆け巡った。シチリアの空港からパレルモへ向かう高速道路の橋に仕掛けられた遠隔操作爆弾による暗殺だった。誰よりもマフィア撲滅に全身全霊をかけて奮闘していたジョヴァンニ・ファルコーネ判事は、イタリアでは反マフィアのシンボルであり英雄だった。日本でもトップニュースで扱われ、マフィア映画以上の非情さに「イタリアはなんという恐ろしい国なんだ!判事を橋ごと爆殺するなんて!」と震撼したものだ。


siciliano-500-3.jpgそのファルコーネ判事がマフィア撲滅の足掛かりとしたのが、二大勢力で成り立つ「コーザ・ノストラ」の組織(マフィア)の一つパレルモ派の一人、トンマーゾ・ブシェッタだった。1980年以降、敵対するパルレモ派の200人以上を次々と殺しまくったコルレオーネ派を法の下で裁くことができたのも、ブシェッタの証言があったからこそだった。本作は、ファルコーネ判事がなぜ暗殺されたのか、シチリアマフィア界の実状とその顛末を、トンマーゾ・ブシェッタの人生を通して描かれた一大史劇である。


siciliano-500-5.jpgマルコ・ベロッキオ監督は、『夜よ、こんにちは』(2003)では元首相のアルド・モロ誘拐殺人事件をテロリストの視点で描き、『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』では独裁者ムッソリーニを狂気じみた純粋さで愛した女性の悲劇を通じて描いている。歴史上の重大事件を当事者の視点で描くことによって、歴史に埋もれた真実を浮かび上がらせている。今回も、無法地帯を生み出した巨悪なマフィア撲滅のために身を捧げた判事と、彼に影響を受けて立ち上がった男の人生を通して、今まで誰も映像化できなかったシチリアの近現代史に踏み込んでいる。まさに、81歳マルコ・ベロッキオ監督の渾身作と言えるだろう。


映画はパーティのシーンから始まる。「コーザ・ノストラ」と呼ばれる組織(マフィア)の代表が収益分配について協議するために一堂に会している。パレルモ派とコルレオーネ派という二大派閥に分かれているが、「コーザ・ノストラ」という組織の下では誰しもが従わなければならない厳格な掟があった。ところが、この盛大なパーティを境に二大組織の均衡は崩壊していくのだった。


siciliano-500-4.jpg主人公のトンマーゾ・ブシェッタは、近年急増している麻薬取引による巨額資金を巡るキナ臭さに嫌気をさして、二人の息子を友人カロに託して、3番目の妻クリスティーナと子供たちを連れてブラジルへ移住してしまう。ところが、ブシェッタの留守をいいことに、リイナを中心とするコルレオーネ派がパレルモ派を根絶やしにしようと、ブシェッタの兄弟・親戚、仲間などを次々と殺していく。(『マフィアは夏にしか殺(や)らない』(2013)というシチリアを舞台にした映画では、初恋の人を追いかける純朴な青年の背後にはいつもマフィアによる殺害シーンが盛り込まれるというブラック・コメディだった)。


一方、不法取引の罪でブラジル政府に逮捕されたブシェッタは、拷問の末イタリアへ強制送還されてしまう。暗殺回避のためイタリア警察に保護され、マフィア犯罪の撲滅に燃えるファルコーネ判事と初めて対面する。組織全体の構成や構成員について詳細な情報を握るブシェッタは誰よりも重要な人物。だが、「コーザ・ノストラ」の“血の掟”に忠誠を誓ったブシェッタもそう簡単に改悛する訳にはいかない。すでに家族はアメリカCIAによる保護プログラム下にあったが、自分の身だけでなく、家族も永久に狙われることになるのだ。(ロバート・デ・ニーロ主演の『マラヴィータ』(2013)では、保護プログラム下にある元マフィアのボスが家族と共に転々としながらも逞しく生きるアクションコメディ)。


siciliano-500-ブシェッタ.jpg本作の中心は、シチリア人としてのプライドを持って生きるシチリアーノであるトンマーゾ・ブシェッタが、ファルコーネ判事の誠実な対応や正義感に同調して、一気にマフィア検挙に持ち込む機運にある。ブシェッタがファルコーネ判事に感化されたというより、同じシチリアーノとしての道義に一致を見た結果、証言台に立つ決心をしたのであろう。また、多くのマフィア幹部の逮捕により裁判が始まるのだが、その大法廷のシーンが傑作なのだ!


まるで歌劇場のような大法廷。舞台には判事たちの席と証人席があり、一般客席にあたる部分には大勢の被告人の弁護人たちが陣取り、周囲のボックス席に当たる部分には鉄格子で区切られた被告人が大勢収容されている。さらに被告人の檻(オリ)の上には傍聴席があって、マフィアの女たちや報道陣が見守っている。法廷はまさに大混乱を極め、怒号や罵声は飛ぶわ、ローマから来た弁護士にはちんぷんかんぷんのシチリア語は飛び交うわ、まったくもって「こんな法廷見たことない!」と笑えてくるほどだ。


siciliano-500-6大裁判全景.jpgそして、長期に渡る法廷闘争に一応の区切りがつけられるが、再び悲劇は起きてしまう。そう、ファルコーネ判事の爆殺事件がおこるのだ。「まるで戦場のよう」とニュースでレポートされるが、爆撃を受けたような惨状に国際社会もショックを受ける。こうして、イタリア政府も本腰をあげて決着へと向かうことになるのだが……。


siciliano-500-1.jpg今まで様々なマフィア映画を観て来たが、一人の男を通じてアンタッチャブルな事件解決に至るまでを描いた作品は珍しい。トンマーゾ・ブシェッタとその家族、特に3番目の妻のクリスティーナとの夫婦愛にも強く心動かされた。先妻の子であってもファミリーを大事にし、夫が苦境にあっても決して見捨てない。日本で言えば「極道の妻」なのだろうが、シチリアを離れてからの流浪の日々でも常に夫を支え、あまり着目されなかった妻の眼差しが男の人生を静かに物語る。哀愁漂うニコラ・ピオヴァーニの音楽も心に沁みる。


(河田 真喜子)

公式サイト:https://siciliano-movie.com/

配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス

©LiaPasqualino ・・・写真上から1、2枚目

©Fabio Lovino ・・・写真上から3、4、5、6、7枚目

 

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