原題 | FRANKIE |
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制作年・国 | 2019年 フランス・ポルトガル |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | 監督・脚本:アイラ・サックス 共同脚本:マウリシオ・ザカリーアス |
出演 | イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、パスカル・グレゴリー、ヴィネット・ロビンソン、アリヨン・バカレ、グレッグ・キニア、セニア・ナニュア、カルロト・コッタ |
公開日、上映劇場 | 2020年8月21日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸他 全国順次公開 |
郷愁漂うポルトガル
深い森と霧に覆われた世界文化遺産のシントラにて、
人生最後の夏に託す大女優の想いとは?
日本人にとって歴史的関係も深く、郷愁を感じさせるポルトガル。イベリア半島の大西洋に面した南北に細長い国で、隣国のスペインという大国に翻弄されながらも独自の文化が育まれてきた。北部のポルトと南部にある首都リスボンを拠点に縦一文字で巡ることができるので旅もしやすい。食事は豊富な海産物を使った料理が多く、味も日本人に合う。物価が安い上に親日家も多く、治安もいい。難民やどこかの大国の団体ツアー客も少なく、落ち着いて旅を満喫することができる。
そんなポルトガルの世界文化遺産に指定されているシントラを舞台にした映画『ポルトガル、夏の終わり』は、死期を悟った大女優のフランキーが家族や友人を集めた、ある1日を描いている。最期のお別れのような悲壮感はなく、主演を務めたイザベル・ユペールならではの大女優の貫禄と横柄さで笑いを誘うシーンも多い。かつて王侯貴族の避暑地でもあったシントラは、伝説的な宮殿や庭園、史跡などが山々に点在し、大西洋からの湿った空気は霧を発生させ、深い森は常に幻想的な雰囲気を醸し出している。
大女優のフランキーは、余命幾ばくもないことを悟り、最後の夏となることを承知で家族と友人を避暑地のシントラに呼び寄せる。優しい現在の夫ジミー(ブレンダン・グリーソン)はフランキーを失うことにひどく落ち込んでいる。彼の連れ子のシルヴィア(ヴィネット・ロビンソン)は離婚を決意しながらも夫と娘を連れて合流。フランキーの元夫のミシェル(パスカル・グレゴリー)と、行く末が心配な独身の息子・ポール(ジェレミー・レニエ)、そして、アメリカの友人でメイクアップアーティストのアイリーン(マリサ・トメイ)とその恋人のゲイリー(グレッグ・キニア)。
彼らを集めて何をする訳でもなく、これという事件が起きる訳でもない。ただ、自らが亡き後、皆が幸せになれるよう、霧と伝説に覆われたシントラで、フランキーなりの演出(思惑)を巡らせるのである。そして、最後に山頂から黄金に輝く大西洋を眺めながら、皆がまるでフランキーの魔法にでもかかったかのように、新たな人生を踏み出していく。このシーンには、ユーラシア大陸の最西端と言われる有名なロカ岬ではなく、そのロカ岬も見渡せるペニーニャ修道院近くの山(ペニーニャの聖域)が使われている。
全編穏やかに流れるようでいて、それぞれの関係性を示す緊迫するシーンもいくつかある。昔プレゼントされたという高価なブレスレットを久しぶりに身に着けたフランキー。それを見ていた義理の娘・シルヴィアが、「試させて」と借りて、そのまま立ち去ろうとする。フランキーは余命幾ばくもないとはいえ、それをシルヴィアに譲る気はなかったようで、すぐさま「返して」と取り返す。実の娘なら「あなたにあげるわ」などと言うだろうに、ちょっとドキッとさせるシーンだ。
ペーナ宮殿の庭園にある、ポルトガルを代表する工芸品・アズレージョという美しいタイルが張り巡らされた東屋のシーンでは、二組の出会いが描かれる。息子のポールが義理の姉のシルヴィアへ変わらぬ愛を告白するが…。そのポールとくっ付けようと招いたアイリーンが連れて来た招かざる客のゲイリーが、フランキーと初めて出会って一方的に自分の夢を語るのだ。ロマンチックな美しさを湛えたタイルを背景に、男性陣の意のままにならない気まずと、フランキーの思惑の行方を想像させるシーンとなった。
イザベル・ユペールは世界中の才能ある監督にラブコールを送ることで有名で、日本の是枝裕和監督にも何度も呼び掛けているが、未だに実現していない。本作のアイラ・サックス監督はアメリカ・テネシー州出身。彼の監督作『人生は小説よりも奇なり』(2014年)を見たユペールからラブコールされて、彼女のために書き下ろしたオリジナル脚本を映画化している。失礼だが、とてもアメリカ人とは思えぬ味わい深いヨーロッパ的センスで、シンプルな物語をビロードのようにしっとりと仕上げている。
(2016.8.18 シントラのパン屋さん by KAWATA)
朝早くジミーがフランキーのために朝食を買いに出るシーンがある。ポルトガルは卵を使った黄色い菓子が多いが、中でもパステル・デ・ナタ(エッグタルト)は世界的にも有名。賞味時間40分と言われ、お土産には適さないのでその場で焼き立てを食べるのがベスト! 忘れられない絶品を味わえる。大西洋に面しているポルトガルは長い海岸線を持ち、西からの強風はサーフィンに適した海岸を数多く形成し、本作でもマサンス海岸(リンゴの浜)という美しい浜辺が登場する。
本作は、美しいだけではない、滋味深いポルトガルへの旅情掻き立てる逸品。コロナ感染が治まって海外旅行が再開されたなら、是非再訪したい。一人旅にもおススメです。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/portugal/
配給:ギャガ
©2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions