原題 | REDJOAN |
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制作年・国 | 2018年 イギリス |
上映時間 | 1時間41分 |
原作 | ジェニー・ルーニー著「Red Joan」 |
監督 | 監督:トレヴァー・ナン 脚本:リンゼー・シャピロ |
出演 | ジュディ・デンチ、ソフィー・クックソン、トム・ヒューズ、スティーヴン・キャンベル・ムーア、ベン・マイルズ |
公開日、上映劇場 | 2020年8月7日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS、8月14日(金)~アップリンク京都他 全国順次公開 |
なぜジョーンは国家機密漏洩という大罪を犯したのか?
本作は、2000年に88歳で逮捕された実在の“ばあばスパイ”をモデルにした原作を基に、第二次世界大戦前後のソ連KGBによるスパイ活動に巻き込まれた一人のイギリス人女性の、秘められた恋と、科学者としての情熱を描いている。漏洩された情報とは核開発に関する機密。ナチスもソ連も日本も大量破壊兵器開発にしのぎを削る中、米英共同で開発されたマンハッタン計画(原子爆弾)の情報が、なんと共産主義国のソ連側へ漏洩していたのだ。その後の冷戦時代の核開発競争や現在の核の脅威を思えば、世界平和を脅かす重大事件であることは確か。ごく普通のおばあさんがそんな大罪を犯していたとは、一体どんな事情が若き日のジョーンにあったというのか?
逮捕時、売国奴として英国中から非難された“ばあばスパイ”ことメリタ・ノーウッドは、その後高齢のため不起訴となり、93歳で死去。弁護士の息子と共に自宅前での記者会見では、「西側だけでなく東側も核保有したことで勢力の均衡が保たれ、世界に平和がもたらされた」と弁明したのである。理屈では妙に納得できても、地球を何度も壊滅させるほどの核兵器が生産されている現状を思えば、気持ちがざわめくのも当然。特に、情報漏洩を決意したきっかけは広島・長崎への原爆投下だったというから、世界で唯一の被爆国である日本人としては尚更だ。「二度とこのような恐ろしい兵器が使われないよう、“核によるバランス”を保つ必要があった」というのが動機だそうだ。
シェイクスピア作品の舞台演出で高名なトレヴァー・ナン監督の、イギリスの演劇界・映画界の至宝、ジュディ・デンチを主演に迎えての渾身作は、「ジョーンのとった行動は正しかったのか?」と、科学者としての信念と、人間として世界平和を希求する意義を問う衝撃作である。
夫に先立たれ、庭いじりしながら静かに余生を送るジョーン(ジュディ・デンチ)は、突然やってきたMI5の捜査官に逮捕される。外務省の高官だったミッチェル卿が亡くなり、彼に掛けられていた諜報疑惑の捜査資料からジョーンの名前が浮上。こんなおばあさんがスパイ!? と驚くが、なんと第二次世界大戦まで遡る罪状だという。取り調べにも同席した一人息子のニック(ベン・マイルズ)は母親の過去が明かされる度に驚嘆するばかり。「父さんは知っていたのか?」というニックの問いに、「大体はね」と答えるジョーン。罪状が捜査官により提示される度に封印してきた過去の記憶が甦ってくるのであった。
ナチスの脅威がヨーロッパを覆いつつある中、ケンブリッジ大学で物理学を学ぶ18歳のジョーン(ソフィー・クックソン)は、ある日美しいソニア(テレーザ・スルボーヴァ)というユダヤ系ロシア人と知り合う。共産主義思想に傾倒していた頃、彼女の従弟のレオ(トム・ヒューズ)を紹介され、弁舌に長け行動力のあるレオにたちまち恋に落ちる。だが、開戦前にソ連へ行くというレオとの不本意な別離後、優秀な成績を認められたジョーンは、マックス・デイヴィス教授(スティーヴン・キャンベル・ムーア)の下で原爆開発という機密任務に就く。
米英共同開発のマンハッタン計画のためデイヴィス教授と共にカナダのケベックへ渡ったジョーンは、そこでレオと再会し機密漏洩を持ち掛けられる。だが、利用されるだけの関係に訣別。その後、原爆投下された広島と長崎の驚異的な威力と惨状を知るや、原爆開発に携わった研究者の一人として罪の意識に苛まれ、戦後の資本主義国家と共産主義国家の世界勢力の均衡を保つため、ソ連への機密漏洩を決意するのだった。
老醜をさらすこともいとわない名優、ジュディ・デンチはさすがの貫禄だが、ジョーンの若き日を演じたソフィー・クックソンも負けてはいない。科学者として理想に燃える学生や、レオとの初恋に身をやつす女心、妻帯者であるデイヴィス教授との不倫の果てに掴んだ真実の愛……危険な諜報活動を重ねながらジョーンの張り詰めた心境の変化を、生き生きとした表情で物語っていた。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ https://www.red-joan.jp/
配給:キノフィルムズ
© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018