原題 | Fahim |
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制作年・国 | 2019年 フランス |
上映時間 | 1時間47分 |
監督 | ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル |
出演 | アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ナンティ、ミザヌル・ラハマン他 |
公開日、上映劇場 | 2020年8月14日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、T・ジョイ京都ほか全国順次ロードショー |
チェスの才能で未来を切り拓いた少年。
その背景の明と暗をきめ細かく描いて惹きつける
残念ながらチェスどころか日本の将棋や碁などにも親しむ経験がなかったので、最近の藤井少年の棋聖昇格のニュースに触れたりすると、あのような人たちの頭の中はどうなっているのかと思う。目の前の状況から、先の先までの幾つものパターンを想像できるというのは、やはり飛び抜けた数学的思考力によるものなのだろうなあ、と単純に感嘆してしまう。
この映画はチェスに秀でたバングラデシュ出身の少年ファヒムが、フランスのパリで大きなチャレンジをするという、実話に基づいたもの。スリリングなチェス大会のシーンのみならず、移民を取り巻く政治的な問題、生き延びるために力を尽くす家族のドラマ、手を差し伸べてくれる異国の人々の優しさなどを絡み合わせて、単なるサクセス・ストーリーではない、見応えのある仕上がりになっている。
政情が不安定なバングラデシュ。首都ダッカに暮らす少年ファヒム(アサド・アーメッド)はチェスの大会で勝利を積み重ねていたことが原因で妬みを受け、また、親族が反政府組織に加わっていたということもあって、一家は脅迫されるようになる。父親は家族を守るため、固い決意を胸に8歳のファヒムだけを連れてフランスのパリへ。ファヒムの才能を伸ばそうと、フランスでチェスのトップコーチと目されるシルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)の教室に足を踏み入れるのだったが…。
一見がさつなようで実は繊細で教育熱心なシルヴァン、愛情深いまなざしでファヒムや子どもたちを見つめるチェス教室のオーナー・マチルド(イザベル・ナンティ)、それぞれに個性豊かで心根の優しい生徒仲間に支えられ、ファヒムはチェスの能力もフランス語の会話力も高めながらパリの生活になじんでいく。それに引きかえ、なかなか言葉を覚えられず、あたふたしているように見える父親。だが、表に現れない彼の「家族を何とかこちらへ呼び寄せたい、ファヒムを一流のチェス・プレイヤーにしたい」という切ないほどの願望と献身には心を打たれる。そして、移民申請を受け付ける職員とファヒム父子の間で、でたらめな通訳をやってのける男、彼の行為に対する腹立たしさとその裏に隠された哀れさの両方が、我々日本人には遠く感じる難民や移民の現実を近くへ引き寄せる。
フランス・チャンピオンを決めるクライマックスの大会はもちろんだが、チェス盤を見ずに駒を進める、いわゆる“目隠しチェス”の方法で、シルヴァンがファヒムを鍛えるシーンが印象深い。そして、マチルドがファヒム父子を助けるため、電話で首相に問いかける場面もいいなと思う。ファヒムを演じたアサド・アーメッドは、キャスティングの3ヶ月前にファヒムと同じくバングラデシュからフランスにやって来たとか。これがスクリーン・デビューとは思えない、堂々とした自然体の演技だ。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://fahim-movie.com/
配給:東京テアトル、STAR CHANNEL MOVIES
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