原題 | Dovlatov |
---|---|
制作年・国 | 2018年 ロシア・ポーランド・セルビア合作 |
上映時間 | 2時間06分 |
監督 | アレクセイ・ゲルマン・Jr. |
出演 | ミラン・マリッチ、ヘレナ・スエツカヤ、アルトゥール・ベスチャスヌイ、ダニーラ・コズロフスキー、アントン・シャギン |
公開日、上映劇場 | 2020年6月20日(土)~渋谷ユーロスペース、6月26日~テアトル梅田、京都シネマ、近日~元町映画館ほか 全国順次公開! |
受賞歴 | 第68回 ベルリン国際映画祭(2018年)銀熊芸術貢献賞(エレナ・オコプナヤ:コスチューム、プロダクトデザイン) |
~ユニークな視点で切り取る、ソ連時代を生きる芸術家の葛藤~
『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』(アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督)は、1971年の革命記念日をむかえるソ連第2の都市レニングラード(現在のサンクトペテルブルグ)を舞台にし、記念日までの6日間を描いた作品だ。フルシチョフのスターリン批判と、そのあとの「雪解け」の時代と東西冷戦時代を過ぎて、ソ連はブレジネフ政権の時代となる。長い「停滞」の時代は1980年代半ばのゴルバチョフの「ペレストロイカ」政策まで続いた。
1971年はそんなブレジネフ時代、ナボコフの「ロリータ」はソ連では発禁だが、公園の物々交換している場所に行くと、こっそり、読みたいかと寄ってくる男がいたりする。作家たちの集うダーチャ(別荘)での喧騒やファッション、カフェやクラブで演奏されるジャズ。映画には出てこないが、ビートルズのレコードもこっそりコピー(レントゲン写真を使ったいわゆるソノシートがあった)されていた。フィンランドからジーンズやパンストや化粧品が運ばれ、それを密売する人々も出てくる。この映画の魅力はなんといっても、そういった細部のリアリティである。
ドヴラートフは自称作家である。彼は工業新聞とか労働組合の機関紙とかに記事を書くジャーナリストとして糊口をしのぎ、小説も作家同盟に提出するが却下される。この国では作家同盟員として認められ出版されないと作家にはなれない。同盟の事務所にいくと読まれなかった小説の原稿が中庭に散乱し、子どもたちの古紙回収になるという。事務所で働く女性の口利きで、同盟のお偉方が集まるダーチャのパーティに行き、賄賂のフランス製のコニャックを渡すことになるが、お偉いさんはそんなものは箱ごとあるよと言う。
造船所の竣工式の取材に行くと、歴代ロシアの文豪に扮した労働者たちが並んでいる。新しい船の名前も誰も知らないような作家(これは架空の名前)の名で、ドヴラートフには、こんなおふざけは文学の冒涜に見える。闇商売をしていた友だちが当局に挙げられ、逃げようとして車にはねられる。仲間のブロツキーはアメリカに亡命するという。
ドヴラートフは妻と別居しているが、自分に懐いている娘のためにドイツ製の人形を求めて右往左往する。ドヴラートフは時々夢を見る。年老いた母は、「夫はスターリンの夢を見た後呼び出された」と恐ろしいことを言う。その後ドヴラートフはブレジネフの夢を見てしまう!
この映画では描いていないが、このあとドヴラートフもアメリカに亡命、彼の地でロシア語の小説を書いて知られるようになり、現在ではロシア文学の巨匠としてロシアでも多くの読者がいるという。私は読んでいないけれど、この映画には、ドヴラートフの作品にあるさまざまなエピソードがコラージュされているらしいので、読んでみようと思う。
アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督はその名前の通り巨匠アレクセイ・ゲルマン監督の息子である。父の遺作『神々のたそがれ』では、亡くなった父の後を継いで作品を完成させた。余談ながら1971年は父ゲルマンが映画『道中の点検』を発表した年であり、その作品はジュニアの祖父ユーリー・ゲルマンの原作である。さらに言えば、『道中の点検』は検閲を通らずペレストロイカまで公開されなかったいわくつきの作品。一旦敵に寝返った男を信用できるかというテーマで、主人公は彼を信じ重要な任務を与えるというサスペンス映画だ。
つまりは三代にわたる芸術家の一族で、時流に合わせず、真の芸術を追求する精神を継承しているのである。
(夏目 こしゅか)
公式サイト⇒ dovlatov.net
配給:太秦
©2018 SAGa/ Channel One Russia/ Message Film/ Eurimages