原題 | OFFICIAL SECRETS |
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制作年・国 | 2018年 イギリス |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | ギャヴィン・フッド(『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』) |
出演 | キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード AND レイフ・ファインズ |
公開日、上映劇場 | 2020年8月28日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、TOHOシネマズ西宮OS、9月4日(金)~シネ・リーブル神戸、近日~豊岡劇場 他全国順次公開 |
~“国家の犯罪”をスルーしなかった勇気ある公僕~
2020年を迎えたとき、まさか社会がこんなにややこしくなっているとは思ってもみませんでした。新型コロナウイルス……。日常生活をいとも簡単に壊しやがった憎いヤツめ! 映画館が閉館になり、新作映画の公開も延期され、一体いつになったら、元の世の中に戻るのでしょうかねぇ。1日も早い終息を切望しています!
日常生活を壊すといえば、やはり戦争です。直近では、2003年のイラク戦争を思い浮かべます。2001年の「9.11」、いわゆるニューヨークの世界貿易センタービルなどに旅客機が突っ込んだアメリカ同時多発テロの報復に、時のブッシュ大統領が仮想敵国のイラクへの侵攻を企み、同盟国イギリスのブレア首相もそれに加担しました。大量破壊兵器の保有。それが大義名分でしたが、そんなモン、徹底調査して最初からないとわかってるのに、2003年3月、愚かにも米英両国が戦争へと突き進んでいきました。アホかいな!
本作はその開戦前夜、イギリスの諜報機関GCHQ(政府通信本部)に中国語翻訳官として勤務していたキャサリン・ガンという女性の行動を再現したものです。彼女に扮したキーラ・ナイトレイが迫真の演技を披露しています。3つのステージで構成されているので、わかりやすいです。
第1のステージ――。ある日、アメリカの諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られてきたメールをキャサリンが見て、吃驚します。そこには、国連安全保障理事会のメンバーを盗聴(スパイ)すべしという内容が書かれていたのです。
「そんな殺生な。こら、アカンわ。そもそもイギリス政府はこんなワケのわからん戦争に関わったらアカンねん」(こんな字幕は出ませんので、ご了承ください)
映画では言及されていなかったけれど、キャサリンは広島で英語教師を務めていたとき、原爆ドームを訪れ、戦争の悲惨さを思い知ったようです。そして彼女は行動を起こします。何とイギリスの有力新聞の1つ、オブザーバー紙にリークしたのです。
これはなかなかできません。すごく勇気の要ることです。しかも彼女の夫はクルド難民のイスラム教徒。世間の偏見が増長されるのは目に見えています。それでも、キャサリンが政府を裏切る行為に出たのは、国家公務員としての確固たる信念があったからです。それを象徴するセリフがこれでした。
「うちは、政府やのうて、国民に仕えてますねん。政府が国民にウソをつくために働いてるんとちゃうねん!」(こんな字幕は出ませんので、ご了承ください)
すべて国民ありき! 意味のないイラク戦争に自国民を巻き込ませてはならじ。これぞ公僕の鑑! そこに社会正義という道理がかぶさり、彼女を突き動かしたのです。
日本でも、政府(というよりも某首相)がややこしい所業をなしたり、感情に任せてええ加減な発言をしたりすると、官僚が必死のパッチでその尻拭いをしていますよね。森友問題では自死という悲惨な結果を生みました。昨今、新型コロナの陰に隠れ、あまり話題に上らないけれど、国民は絶対に忘れていません。社会が落ち着いたら、徹底究明が待ってまっせ。某首相、覚悟しときなはれや!
ごめんなさい、つい感情的になってしまいました~(笑)。話を戻します。
ここからが第2ステージ。重要な国家機密をゲットしたオブザーバー紙の動きを追っていきます。ぼくは元新聞記者ゆえ、マーティン・ブライト記者(マット・スミス)が中心となって、メールの文書がホンモノか否かの裏取り(確認)取材を進めていく過程がすごく興味深かったです。こういうケース、大スクープに目がくらむとあきません。何せ国家の一大事。よほど慎重に、かつ丁寧に取材をしないと、えらいことになります。
権力(政府)を監視するというジャーナリズムの大きな理念に基づき、取材に奔走する記者たち。同じイラク戦争を題材にしたロブ・ライナー監督のアメリカ映画『記者たち~衝撃と畏怖の真実』(2017年)の映像が重なってきました。それは大量破壊兵器があるとアメリカ政府が捏造したのを暴いた新聞記者の物語でした。
記者たちの苦労の末にようやくオブザーバー紙が世に放った告発記事……。それがしかし、「フェイク(虚報)」と断罪されます。なぜならアメリカから送られてきた極秘メールなのに、紙面ではイギリス英語の文書になっていたからです。
color(米)-colour(英)、favorite(米)-favourite(英)、realize(米)-realise(英)、center(米)-centre(英)……。同じ英語圏とはいえ、アメリカ英語とイギリス英語には、綴りにいくつか違いがあるんです。記事は紛れもない事実なのに、編集局部員のちょっとした思い込みで、特報が誤報に思われてしまい……。こんな落とし穴があるんですね。怖い、怖い。
そして最後のステージは……。クライマックスとなるくだりなので、ネタバレはご法度。ここでは、法廷(裁判)ドラマと化し、人権擁護の法律事務所がキャサリンをサポートしていくことだけを記しておきます。当時、ニュースになっていました。主任弁護士のベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)のブレない態度には大いに共感!
公務員、ジャーナリスト、弁護士――。三者三様、国民としての使命感を抱き、国家に「NO!」を突きつけた姿はすごく凛々しいものでした。それを濃密に描いた本作は、正真正銘、骨太な社会派映画です。こういう映画、日本で作られないのが残念。すべての公務員に観てもらいたいです。
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト⇒ http://officialsecret-movie.com/
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
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