© 2020映画『ステップ』製作委員会
制作年・国 | 2020年 日本 |
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上映時間 | 1時間58分 |
監督 | 飯塚健 |
出演 | 山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、伊藤沙莉、川栄李奈。角田晃広、片岡礼子、広末涼子、余貴美子、國村隼他 |
公開日、上映劇場 | 2020年7月24日(金)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸他 全国ロードショー |
不安や葛藤を抱えながら、
熱きシングルファザーが走る、コケる、歩む
さまざまな事情により、一人で子どもを育てなければならなくなったシングルマザーの映画登場数に比べて、シングルファザーは少ないなと感じる。身の回りでもシングルファザーってほとんど聞かないので、子どもを抱えて一人になっちゃった男は、誰かに預けて育児放棄しているケースが多いのかも。また、家事は女の仕事だと決めつける男社会の考え方は根強く、働き盛りといわれる男が仕事より家庭優先を選んだりすると、特にこの日本ではアカンタレのように見なされ、女が同じことをすれば、「ま、仕様がないね、女だから」と暗黙のうちに了解される。そういうところが、映画にも反映されているのだろうか。
本作は、『恋まで、あと三歩。』の題名で「中央公論」に連載された重松清の小説をもとに、突然妻を亡くした男が七転八倒しながら娘と共に生きてゆく姿をじっくりと描いたもの。エキセントリックな役柄が多く、カメレオン俳優とも呼ばれる山田孝之が、すっきりと髭を落とし、純なところもある悩める父親像に挑んだ。
映画は妻に先立たれてから1年後、スーツにリュックサックを背負い、幼い娘・美紀を乗せたベビーカーを押す健一(山田孝之)の今から始まる。その日は、美紀の保育園デビューの日。娘がすぐになじめるかどうか心配していたのだが、明るくお茶目なケロ先生(伊藤沙莉)のお蔭で、健一は職場に向かうことができた。しかし、仕事と家事の二刀流で切り盛りする新しい日常の、本当の苦しさ、つらさ、そして時間をかけて育まれる喜びは、健一の想定外のものばかりだった…。
バリバリの営業マンで上司からも一目置かれていたらしい健一だが、総務部に転属、美紀を保育園に迎えにいかねばならないので、早めに退勤できるフレックス勤務にしてもらった。だが、仕事を残し、同僚に頭を下げて帰る…これが、同僚への申し訳なさ、さらには自分への情けなさを生む。美紀を連れて帰ってからも、食事に入浴、洗濯、就寝前の本の読み聞かせなど、やるべきことはいっぱいだ。美紀に「パパの抱っこは忙しい」と指摘されるけれど、体も心もくたくた。
でも、この父娘をちゃんと見てて、さりげなく支えてくれる人たちがいるから、健一は「自分の手で娘を育て上げたい」という目標に向かって生きてゆけたんだと思う。亡き妻の父親・明(國村隼)とその妻・美千代(余貴美子)なんてめちゃくちゃええ人たちやし、後半から健一の同僚として登場する奈々恵(広末涼子)の距離の保ち方は出来すぎといえるぐらいで、映画が終わってから、この作品に腹黒い人はゼロだったなと思い返したのだった。それから、居間のカレンダーの下についている赤い筋が何なのか最初はわからなかったが、それが指し示す重大な意味が、健一に頑張り抜く強さを与えたのだろうとも思う。
美紀の成長に合わせて、3人の子役が出てくるが、私は二番目の白鳥玉季の軽妙さに目を引かれた(将来、コメディエンヌとしてもイケそう)。本作は、今年に入って『mellow』『酔うと化け物になる父がつらい』に続き3作目となる活躍ぶりだ。主題歌は、秦基博がこの映画のために詞を書き下ろした『在る』。涙腺を突いてくる温かなメロディだ。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ https://step-movie.jp/
© 2020映画『ステップ』製作委員会
配給:エイベックス・ピクチャーズ