©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH
原題 | 英題:My Extraordinary Summer with Tess |
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制作年・国 | 2019 年 オランダ |
上映時間 | 1時間24分 |
原作 | アンナ・ウォルツ「ぼくとテスの秘密の七日間」(野坂悦子訳、フレーベル館) |
監督 | 監督:ステフェン・ワウテルロウト 脚本:ラウラ・ファンダイク |
出演 | ソンニ・ファンウッテレン、ヨセフィーン・アレンセンほか |
公開日、上映劇場 | 2020年5月29日(金)~シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、近日~京都シネマ 他全国順次公開 |
~開けタイムカプセル!甘酸っぱいひと夏の思い出~
夏、離島、冒険、初恋、秘密……。なんてワクワクするキーワード!これぞ子ども時代の夢の宝石箱だ。瀬戸内海の祖母の家にはよく夏に行ったものだけど、こんなてんこ盛りのドキドキはなかったなぁ~。
サム(ソンニ・ファンウッテレン)は11歳の少年。両親と3歳上の兄ヨーレと1週間のバカンスにオランダの離島・テルスヘリング島にやってきた。サムは近ごろ死について考えている。絶滅した恐竜の最後の一頭は死ぬとき寂しくなかったのだろうか。家族の中で最後まで残るのは末っ子の自分。サムはそのときに備えるため、一人で過ごす訓練を始める。初日は2時間、次の日は4時間と徐々に体を慣らす計画だ。楽しげに過ごす家族をしり目に、一人海岸で秘密基地を作るサムの背中はロビンソン・クルーソーさながら。しかし、島のゲストハウスの娘テス(ヨセフィーン・アレンセン)と知り合ったことでサムの冒険は思わぬ方向へ向かうことになる。
原作はオランダを代表する児童文学アンナ・ウォルツの「ぼくとテスの秘密の七日間」。これに惚れ込んだステフェン・ワウテルロウト監督が原作の世界観はそのままに島の自然を俯瞰でとらえたスケール感や子どもたちの躍動感あふれる動きでみごとに映像の世界へと発展させた。
命はどこからきてどこへいくのか、人はどうして死ぬのか、誰でも一度は突き当たるこの疑問。子どもは死そのものが怖いけれど、大人になると恐怖は微妙に形を変える。すなわち、最後の一頭になってから死ぬまでの時間に不安を覚えるのだ。この映画はそのもやもやにもヒントを与えてくれる。バカンスの間ほとんど家族と別行動のサムだったが、テスをはじめとした島の人々とのふれあいによって自分の家族を外からみつめ直す機会を得る。
この辺りの感情の動きもとても丁寧に描かれていて胸に温かいものが広がる。家族とは常に一緒にいることだけでなく、きっと心の羅針盤のようなもの。ひと夏の冒険の終わりには小さな島の小さなゲストハウスはパーティ会場となり、サルサのリズムがこだますると観ているこっちも思わず踊りだしたくなる。サムとテスの家族、島で出会った人たち、大人も子どもも老人もこの夏の思い出がひとつに溶け合って、この瞬間の積み重ねが生きてるってことなのかなぁと思えてくる。
子どもが主役の映画はついつい大人の視点で観がちだが、この作品は出てくる大人もはっちゃけているから子どもの気分にどっぷり浸れて、まるでタイムカプセルを開けたよう。瀬戸内海の祖父母の家で従姉とマンガを読みふけった何てことのない夏の日が頭をよぎった。テルスヘリング島の風景は、遠浅の海、乗馬する人たち、澄み切った空の下自転車で疾走するサムとテス。砂浜にサムが掘った穴は恐竜の足跡のようで、どこを取っても野性的で開放的な風景とサルサのリズムにとことん魅せられた。これを観たらアナタもきっと記憶の地層に眠っていた感覚が蘇ること間違いなし!
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://kyoryu.ayapro.ne.jp/
後援:オランダ王国大使館
配給:彩プロ
©2019 BIND & Willink B.V. / Ostlicht Filmproduktion GmbH